ARTICLE
ありえない信濃町通信

TOP > ありえない信濃町通信 > 信濃町での二つの顔:トウモロコシ農家と除雪オペレーター、ワタナベ家の移住ストーリー

信濃町での二つの顔:トウモロコシ農家と除雪オペレーター、ワタナベ家の移住ストーリー

ありえない、仕事

信濃町での二つの顔:トウモロコシ農家と除雪オペレーター、ワタナベ家の移住ストーリー

ワタナベ家の大きな変化と信濃町での新生活

ワタナベさんは、9人の大家族(本人、妻、子6人、ワタナベさんの実母)で2020年に信濃町に移住してきました。夏期はトウモロコシ農家、冬期は除雪オペレーターというマルチワークをしておられます。今回は季節によって違うお仕事をする生活のことや、なぜ信濃町に移住してきたのかについて伺いました。

ワタナベさんの背景:愛知の生活と移住を考えた理由

──まず、移住前のお仕事と生活について教えてください。

愛知県で車関係の工場に勤務していました。隔週シフトの仕事で、一週間昼勤務をして、次の一週間は夜勤務をするという生活でした。夜シフトから朝シフトに変わるタイミングは日曜日の朝まで働いて、寝て起きたら月曜日の朝から出勤ということもありました。忙しいときは休日出勤もあって、家事や育児は奥さんに丸投げ状態になってしまうこともありました。

──移住を初めて考えた瞬間やきっかけは何でしたか?

自分は中間管理職だったので、上からも下からもいろいろ言われ、立場的なストレスを抱えることが多かったんですね。そういった仕事の悩みを家庭に持ち込んでしまって、家でイライラすることもありました。そんな時、「この状態で一生涯過ごしていて、自分含め家族みんな幸せなのか?」と自分を見つめ直すことがあったんです。それで「やっぱり妻や子どもたちと接する時間をもっと持ちたい」と思ったのが、移住という行動を起こしたことの原点でしたね。

信濃町との出会い:初めての農業への挑戦

──なぜ信濃町を移住先として選びましたか?

実は初めは、妙高の杉野沢が最有力候補地でした。若い頃からよくスノーボードやキャンプで通っていた縁があって。ただ、杉野沢で実際に家を探し始めると、空き家の数がそもそも少ないし、9人家族で住めるような大家族用の家がなかなか見つからなかったんですよね。

それで、近くの信濃町のことを考えるようになりました。20年ぐらい前から、キャンプの食材は信濃町の第一スーパー古間店で揃えていたので町の存在はよく知っていて。来るたびに風景がいいところだなあとは思っていました。 信濃町を移住先として考えたら、自然豊かな環境で子育てもしやすそうだし、自分の好きなスノボやキャンプは好きなだけできるし、のびのび暮らせそうだなと。それでこちらで家を探し始めたらいい物件が見つかって、移住を決めました。

──前職を退職して、信濃町に移住したときは次のお仕事が決まっていなかったと聞きました。不安はなかったですか?

なかったです。「なんとかなるでしょ」「なんとかしてやるぜ」くらいの勢いでした。

信濃町って過疎地で、高齢化が進んでるじゃないですか。だから農業や林業の担い手が足りてないんだろうなというのはなんとなく予想していたので、何かしら仕事はあるだろうと。 それで移住してちょっと経った頃、近所のおばあちゃんが「知り合いの農家さんのところで仕事あるよー」って紹介してくれて。

──すごい。ほんとになんとかなってる(笑)

はい(笑)。それで働き始めたんですが、その農家さんのところで食べさせてもらったトウモロコシに感動したんです。みずみずしくて、めちゃくちゃ甘い。その出会いがきっかけで、「自分もトウモロコシを育てよう」と思いました。

季節労働の魅力:夏はトウモロコシ、冬は除雪車オペレーターとしての働き方

──今はご自身でトウモロコシを育てているんですか?

はい。2022年から、畑を借りてトウモロコシ栽培を始めました。

──畑はどれくらいの大きさで、どのくらいの収穫がありますか?

広さは現在5反(約5,000平米)で、今年は9000本のトウモロコシを出荷しました。出荷先は主に道の駅で、販売手数料や肥料などの必要経費を差し引いた分が利益になります。栽培期間は5〜8月までですね。 実はトウモロコシを一人で栽培する場合、キャパ的には3反(約3,000平米)ぐらいが限界なんですが、うちの場合は妻や子どもたちも手伝ってくれているので、5反の広さでも質を保ちながら栽培できています。

──家族の力があるのは強いですね。ワタナベさんは農業未経験とのことですが、就農するにあたって心配なことはなかったですか?

最初は自分みたいな新規参入の人間なんて門前払いされるかと思ったんですが、周りの方々が協力的で、技術や考え方についていろんなアドバイスやノウハウを提供してくれます。

中でも心に響いた言葉があって。「農家は毎年1年生だよ。去年と同じことをしてても、去年と同じようにできるとは限らない」という先輩農家さんからのアドバイスです。農業は天候、日照時間、虫の発生などの環境要因によってその年の出来具合が変わってきます。だからスタートラインは経験者も未経験者もほぼ一緒なんだよっていう。何十年もやってる農家さんが言うんだから説得力ありますよね。

そのアドバイスが僕のスイッチを入れてくれました。未経験でも、やる気があれば全然できると思います。

──2020年に移住、2021年にトウモロコシに出会い、2022年には自分で栽培をスタートされて、2023年の今年で2シーズン目を終えられた。順調に農家としての経験を積まれているように思います。これまで何か苦労はありましたか?

うーん、農機具が少ないのは苦労といえば苦労かなあ。例えば、マルチ(土壌表面を被覆するもの)を張る機械を購入すればラクに便利に作業できるのはわかっているんですが、うちではあえて鍬を使って、家族で手作業でマルチを張っています。昔の人のやり方を知りたいと思ってやってる部分があるので、そこまで苦労とは思ってないんですけどね。

ただ、さすがにトラクターは買おうと思ったんですよ。それで地域の方に「中古で何かいいのありますかね?」って相談したら、「買わなくていいよー! うちのやつ使ってー!」って言ってくれる人がいて、甘えさせてもらっています。

──温かい農家さんが多いんですね。ワタナベさんは、冬は除雪車オペレーターのお仕事もしていらっしゃるそうですね。

はい。信濃町は冬になると畑が雪で埋まっちゃうので、農業は夏しかできないんですよね。それで冬場は何やろうかと考えた時、地域貢献になることをしたいなーと思いました。ある日除雪車オペレーターの担い手が足りていないということをニュースで聞いて、「これだ!」と思って、2021年に大型特殊と作業免許の2種類の免許を取得しました。2022年からその資格を活用して、除雪車オペレーターの仕事をスタートしました。

──除雪車オペレーターの仕事の内容や報酬について教えてください。

除雪トラックや除雪ドーザを運転して、県道や町道の除雪をする仕事です。重機の運転・操作がメインなので、実は肉体的な疲労はあまりありませんが、安全確認のために気を張り続ける仕事なので、精神的には疲れます。ただ、作業を終えた後に綺麗に除雪できた道や、その道を走っていく町の人たちの車を見たときに、強い達成感とやりがいを感じます。「自分がこの町の道路の安全を守ってるんだ」って。

収入面については除雪事業を請け負っている企業との契約によります。契約は時給制、月給制、シーズン制があって、僕はシーズン契約をしています。昨シーズンは降雪量が少なく出動回数が少なかったため、仕事としての割が良いと感じました。ただ、雪が多い年は同じ報酬でも出動回数が多くなります。

──1日の労働時間はどのぐらいになりますか?

実はこの仕事には「夜中の0時を回った時点で路面に10cm以上の積雪を確認したら出動する」というルールがあります。除雪前後に毎回カメラで状況写真を撮影していて、この条件を満たさない場合は出動したくてもできません。 労働時間としては、基本的には「みんなが通勤する時間帯までには終わらせよう」というのが目安です。短いときは5時ぐらいに終わるのですが、雪が降り続いていれば明るくなってもやり続けます。一番長いときで0時〜11時30分まで働いたこともあります。

──大型特殊免許を取るための期間と費用について教えてください。

普通自動車免許を持っていれば学科は免除で、実技講習が6時間。なのでスケジュールさえ合えば1週間ほどで取れます。費用は約10万円です。

除雪車オペレーターは常に人材募集していますし、若手がいないので、免許を取ってさえしまえばすぐ仕事に付けます。免許取得費用の出費はすぐに元が取れますよ。

移住後の生活:家族との暮らし、地域との関わり

──信濃町での移住後生活について聞かせてください。まず、家族との関係にどのような変化がありましたか?

愛知に住んでいた頃は1週間家族と接しない期間があったのが、こっちに来てからは一緒に過ごす時間がちゃんととれるようになって、「正常」になりました。休日に家族みんなで出掛けられるのも大きいし、多子世帯の親として、あるべき姿に戻ったと思います。

──普段の暮らしにはどのような変化がありますか?

信濃町で購入した家は、お隣と50メートル以上離れているんです。だから休日にバーベキューパーティーをやって、煙が出て、BGMを流しても怒られないどころか、家の前を通った人が「元気そうでいいねー!」って声かけてくれるんですよ。都会では考えられないですよね。 愛知ではマンションに住んでいたんですけれど、子どもが走り回ったら注意しなきゃいけないし、声が外に出ないように常に窓を閉めたりして、配慮しながら生活していました。子育てする環境としては絶対信濃町の方がいいですね。

──移住されて1年目、地域に馴染むまでの生活はどうでしたか?

僕は人見知りしない性格なので、自然に自分から挨拶していました。すると地域の人からも「どこからきたの?」「仕事どうするの?」という感じで話しかけてくれて、世間話をしながらコミュニケーションを重ねていきました。スッと地域の方と打ち解けることができたと思います。

──お子さんはどうでしたか?6人いらっしゃいますが、皆さん1年目から慣れていましたか?

子どもも慣れてましたね。移住前から、購入した空き家の掃除をするために毎週のように信濃町に来ていたんですけれど、その時から近所の同じ年ぐらいの子たちと仲良くなってて、引っ越してくる前から友達ができている状態でした。

信濃町の魅力:自然、コミュニティ、生活の質など

──お子さんたちは新しい環境や学校生活にどのように適応していますか?

信濃町に1校ある小中一貫校に通っています。自宅から距離はあるのですが、バス通学なので雨や雪の苦労もないです。たてわり活動が盛んで、楽しく過ごせているみたいです。

子どもたちには最初に、「明るく元気でいけば仲良くなれるから!」と話しました。引っ越してきたときは、子どもたちも不安はあったと思いますが、毎日楽しく過ごしているみたいです。

──移住して困ったことは何かありましたか?

信濃町って日本有数の豪雪地帯じゃないですか。だから冬は雪かきをしなきゃいけないんですが、うちは除雪機がないので、スコップ等でやっています。覚悟していたことですが、雪の量が多いときはやっぱり大変です。

雪下ろしをやらなければ家を守れない大切さも体験できました。屋根に積もった雪の重みで障子が動かなくなったんですけど、雪下ろしをしたら動くようになるようなことも、実体験として得ることができました。

ワタナベさんからのアドバイス:移住を考える人へのメッセージ

──最後に、信濃町に移住を考える他の人へのアドバイスやメッセージをお願いします。

移住を考えているなら、暮らす前にすべての季節で信濃町に来て、体感するのがいいと思います。少なくとも冬は絶対に何日か滞在して、この町の冬がどんなものなのかを自分の目で見たほうがいいです。

地域の人とのコミュニケーションは思っているほど心配しなくて大丈夫です。信濃町は移住者に対してウェルカムな考えを持っている人が多いので、自然に仲良くなれると思います。

あとはそうですね。人生一度きりなので、移住の憧れや迷いがあるならじっくり考えて準備をして、自分が幸せになる方向に行動してほしいですね。

まとめ:信濃町での新しい生活の可能性

ワタナベさんのモットーは「人生一度きり。後悔しないように生きよう」だそうです。

取材後、「人と人がつながればいろんな可能性が出てくると思う」、「繋がったら解決できることもたくさんある」と話してくれたワタナベさんは「人口が減っている中で、同年代の人たちと信濃町を賑やかにしていきたい」とも語ってくれました。 ワタナベさんとご家族の楽しい生活は、これからも広がっていきそうです。

町民ライター 観音クリエイション

ヒップホップのトラックメーカー、ライター。音楽を作ったり、写真を撮ったり、文章を書いたりして生きています。2020年8月より長野県信濃町に移住しました。

\こんな記事も読まれてます!/