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3月に野尻湖の湖底でナウマンゾウの化石を掘る!?野尻湖発掘について取材しました

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3月に野尻湖の湖底でナウマンゾウの化石を掘る!?野尻湖発掘について取材しました

(写真:第22次発掘(2018年) 提供:野尻湖発掘調査団)

こんにちは。新卒から信濃町に移住して2年目になりました、地域おこし協力隊の中山雅士です。

突然ですが「ナウマンゾウ」って聞いたことありますか?

ナウマンゾウは、かつて日本列島に生息していたゾウです。信濃町の野尻湖底にはたくさんのナウマンゾウの化石が埋まっていて、1962年から60年間で22回の発掘調査が行われており、大量の化石が見つかっています。私が勤めている野尻湖ナウマンゾウ博物館では出土した化石などを展示し、発掘の成果を紹介しています。

そして今年2023年3月、新型コロナウイルスの影響で延期されていた第23次野尻湖発掘が開催される予定です。

発掘は野尻湖底でおこなわれていますが、水中で掘るわけではありません。野尻湖の水は水力発電に利用されていて、3月に一番水が多く使われるため、岸に近い湖底が干上がります。それで3月に発掘が行われているのです。

今回は、去年で60周年を迎えた野尻湖発掘の歴史と未来、そして発掘の魅力について取材しました!

今回お話を伺った方

野尻湖発掘の内容

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第20次発掘(2014年) 提供:野尻湖発掘調査団

――まず、野尻湖発掘の主な目的は何でしょうか?

野尻湖発掘ではナウマンゾウが生きていた時代の環境を復元し、人類との関係を解明することを目的としています。そのため、地層の中から出てきた全てが研究対象です。大きなものはナウマンゾウなどの骨ですが、小さなものだと植物の種や花粉までも見つけています。

また、私たちが見つけているのはモノだけではありません。動物の足跡などモノではないけれど当時の環境が分かるものは全て重要な証拠です。

――実際に発掘に参加すると、どのようなことができるのでしょうか?

前回掘った場所までスコップで掘り進めて、そこから地層や土の細かな変化に十分に気を配りながら道具を使って慎重に掘り進めて行きます。もし遺物が出てきたらすぐに専門の人を呼んで、化石や遺物の記録を取ります。その後化石・遺物は大切に保管されます。

また、1日の発掘成果をその日のうちにまとめて、翌日の発掘をどう進めるか検討します。さらに発掘期間中に数回、野尻湖新聞も発行しています。これは数日分の発掘成果をまとめたもので地域の人にも配ります。

――発掘ってとてもロマンがあると思いますが、近藤さんはどのようなところが魅力的だと思われていますか?

もちろん化石が見つかったり、新たな発見があったりすることも重要ですが、やはり一番の魅力は人の交流だと思います。様々な人が一つの目的に向かって協力したり、議論したりすることは日常生活ではあまりないことです。私は発掘の結果も大事ですが、この結果を導くための「過程」が一番大事だと思っています。知識が全くない方でも周りにはそれを教えてくれる人がたくさんいますし、そこで興味がわけばその後学習会に参加することができるなど、その後のフォローもきちんと用意しています。

また子供のころから様々な人や自然と交流していくことでより科学的および論理的に考える癖がつき、その後の成長により良い変化があると考えていますのでそのような面でもこの発掘は大変魅力的だと思います。

野尻湖発掘の歴史

――野尻湖の発掘はどのようにして始まったのですか?

1948年に野尻湖畔に建っている小松屋旅館のご主人・加藤松之助さんが湖畔を散歩していると、湯たんぽのような形の化石を見つけます。これを加藤さんは小学校に持って行き調べてもらうことにしました。それが野尻湖で最初に見つかったナウマンゾウの歯だったのです。

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その情報を聞いた豊野層団体研究グループが野尻湖畔で調査をしている時、ナウマンゾウの化石がどの地層から出たのか議論になりました。その時議論ばかりしていないでまず掘ってみよう。実践だ!という提案があり、1962年に発掘が始まりました。

――1962年が始まりということは、去年が60周年だったのですね!

そうです。数年おきの発掘ではありますが今までで22回の発掘が行われています。60年もの間、ひとつの遺跡で発掘を続けているというのは全国的に見てもかなり珍しいですね。

――ここまで長く続いているのはなぜなのでしょうか?

一つの大きな理由としては化石が出続けているからです。これまでたくさんの発掘を行ってきていますが前回でも200点以上の化石・遺物が見つかっています。調査の手法を少しずつ変えながらも、目の前の発掘に向き合い続けたらいつの間にか60年がたっていた、という感じです。

発掘に関わる人々

――発掘はとても知識を必要とする作業が多いようですが、専門家でないと参加できないのですか?

そのようなことはありません。野尻湖発掘では知識や経験のない人でも参加することができます。また年齢や住んでいる場所についても全く制限を設けていませんので、毎回全国各地から様々な年齢の人が野尻湖に集まり、一緒に発掘をやっています。

――近藤さんもはじめからナウマンゾウのことに詳しかったわけではないのですよね?

そうですね。私が最初にこの発掘に関わるようになったのは大学一年生のころですが、その当時は教科書に載っていることや発掘をやっていることは知っていましたがそれ以上の詳しいことはあまり知りませんでした。しかしこの発掘に関わっていくなかでたくさんのことを学び、今に至ります。

今年の発掘の狙いは「ヒト」

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――去年60周年を迎えた野尻湖発掘ですが、ズバリ今年の狙いは何でしょうか?

今年の狙いのひとつは、ヒトの足跡を含めた、ヒトがいた痕跡を探すことです。

野尻湖では、ナウマンゾウが生きていた時代にヒトも同じく野尻湖にいたのではないかと考えています。それは、ナウマンゾウの化石が見つかった地層から、骨を加工した道具や石を加工した道具が発見されているからです。しかし残念なことに、これらの証拠は専門家の間でも意見が割れており、この証拠だけでは乏しいのです。そこで今年は一番可能性の高いヒトの足跡を含めたヒトがいた痕跡を探すことが大きな狙いです。

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――なぜ野尻湖でヒトを見つけることが重要なのでしょうか。

実は今私たちが学校などで習っている教科書には確実に日本にヒト(ホモ・サピエンス)がいたとされる時代はナウマンゾウがいた時代より新しく、ヒトは野尻湖にはいないことになっています。つまりナウマンゾウと同じ時代にヒトがいたという証拠を見つければ、今までの歴史を覆す大発見になります。ただむやみに説を唱えているわけはなく、人が作った道具ではないかとされるものが見つかっているので、ヒトがいたという確実な証拠をみつけるということが、この発掘においてとても重要な点です。

野尻湖発掘の未来

――発掘は今後も続いていくと思われますが、どのような計画をされていますか。

今後ともデータの集積はずっと続けていく予定です。それを続けていくと、今までの常識や枠組みを超えた新たな発見があると考えているからです。今までも10の専門グループが発掘調査団にはあり、様々な発見をしてきましたが、今後はその専門グループの垣根を超えて意見を交わし、新たな視点から発掘の結果を見ていくということは重要なことだと思っています。

――今年の発掘で、どんな人に来てほしいですか。

それは興味を持っていただいた人すべてに参加していただきたいです。野尻湖発掘では年齢や住んでいる場所が様々でも、経験や知識が全くない人でも一緒に発掘を楽しんで、同じことに取り組み、考え、そして交流することができるかけがえのない場所です。今年もいろいろな人と触れ合えることを楽しみにしています。

ありえないいなかまちで、ロマンと歴史を掘り起こしてみませんか。

この記事を読んでいて、野尻湖発掘に参加してみたくなった方もいらっしゃるのではないでしょうか。参加にはいくつか条件がありますのでお知らせします。

 ・発掘に3日以上参加できること
 ・お住まいの地域の野尻湖友の会に入会していただき、事前に配布される「手びき」等で事前学習をすること
 ※ 野尻湖友の会への入会については、野尻湖ナウマンゾウ博物館にご連絡いただきますと、博物館より友の会へ連絡し手続きをいたします。
 ・野尻湖発掘は研究を目的とした学術発掘ですので、単なる化石採集ではないことを承知いただけること

詳細は野尻湖ナウマンゾウ博物館ホームページをご確認ください。

また、野尻湖ナウマンゾウ博物館3階特別展示室では『野尻湖発掘60周年記念展―ナウマンゾウの狩り場にせまる―』を2023年4月2日まで開催しています。本邦初公開の貴重な展示もありますので、そちらもぜひ見に来てください!

グラフィカル ユーザー インターフェイス, アプリケーション

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野尻湖ナウマンゾウ博物館
開館時間 午前9時~午後5時
休館日 年末年始、月の末日(ただし、月の末日が土曜、日曜、祝日の場合は次の平日)
    ※3、4、7、8月は無休
HP:http://nojiriko-museum.com

地域おこし協力隊 中山

熊本県熊本市出身。2021年10月に信濃町に移住し、野尻湖ナウマンゾウ博物館に地域おこし協力隊として勤務。子供のころから歴史や風土が大好きでした。休みの日は国語辞典を読みながらお酒を飲んでいます。

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