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ありえない信濃町通信

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お客様と共に時間を紡ぐ「珈琲 占野」が信濃町にオープン。こだわり抜かれた珈琲を珈室(こしつ)で味わう極上のひと時

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お客様と共に時間を紡ぐ「珈琲 占野」が信濃町にオープン。こだわり抜かれた珈琲を珈室(こしつ)で味わう極上のひと時

こんにちは。2020年8月に信濃町に移住した観音クリエイションです。

今回は2023年に信濃町に移住されて「珈琲 占野」を営む占野(しめの)さんにインタビューさせていただきました。

占野さんの移住の経緯や信濃町での暮らし、珈琲との出会いの話題を中心に、お話を伺います。

今回インタビューした人

占野 大地(しめの だいち)さん
長崎県対馬生まれ。神奈川県でのサラリーマン経験を経て、2019年秋よりオンラインで珈琲販売を開始。2023年春、妻の奈菜子さんと共に信濃町へ移住し「珈琲 占野」をオープン。

珈琲 占野の『珈琲 ノ 席』について

――まず珈琲 占野さんの「珈琲 ノ 席」について教えてください。

「珈琲 ノ 席」は、お茶の世界における茶事(ちゃじ)の様なものです。少人数のお客さんを様々な道具と古道具や作家さんの作品でもてなし、仕立てた珈琲と甘味で紡ぐ「時」を楽しむお茶席のような場を提供させていただいています。

――今回の取材では「珈琲 ノ 席」を体験させていただけるとのことで、楽しみにしていました。今日はよろしくお願いします。

こちらこそよろしくお願いします。まず1杯目は浅煎り豆を使って、珈琲を楽しんでいただきたいと思います。

――ミルがかわいい。

ありがとうございます。これは70年ほど前に作られたプジョー社のもので、大学生の頃にフランスを旅行したときに見つけて購入しました。豆を挽いたときに手に伝わってくるジャリジャリっとした感覚が好みで、購入以来ずっと愛用しています。

「珈琲 ノ 席」では挽きたての豆の香りを嗅がせていただく時間も。五感すべてを使って時を楽しむことができます。(モデル:吉村さん)

――次から次に見たことがない道具が出てきて面白いです。手元の銀色の器は何ですか?

これは蓋碗(がいわん)という茶器で、本来は中国茶を淹れるときに使われるものです。これで珈琲を淹れたらどうなるのかなと思って実際にやってみたら美味しくて。個人の感覚としては、フレンチプレスで淹れたような方向性に近いような気がします。ちなみにこの蓋碗は福岡で作陶されている福村龍太さんという作家さんに作っていただいたものです。

1杯目の珈琲が注がれるのは石川県金沢市で制作している西山芳浩さんによるぐい呑み。厚みのあるガラス製で、ゆらぎが美しい。

珈琲 占野の『珈琲 ノ 席』ができるまで

――こんなスタイルで珈琲を頂くのは初めです。酸味があって、とてもおいしい。ところで、占野さんはなぜ珈琲を自分の仕事にしようと思ったのですか?

大学に入った頃ぐらいから「朝起きて珈琲を飲む」という生活に憧れがあったんですよね。それでスタバのハンドドリップスターターキットみたいな福袋を買って、その道具を使って自宅で珈琲を淹れはじめました。そこからどんどん珈琲の世界にハマって、大学2年生の頃には「30歳までに自分の珈琲屋を持ちたい」という思いを持っていたように思います。

――学生時代は憧れの対象だった珈琲が、仕事になったきっかけのようなものは何かありましたか?

2020年2月に福岡のギャラリー「うつしき」で開催された陶芸家 福村龍太展が大きなきっかけです。福村さんから「占野くん、今度やる僕の展示会で一緒に何かしよう!」と声をかけていただいて。また、「うつしき」を主宰するオーナーの小野さんにもお力添えをいただいて、そこで初めてお客さんを珈琲でもてなすという経験をさせていただきました。この経験が今の信濃町での「珈琲 ノ 席」につながっています。

――福村龍太さんは先ほど1杯目の珈琲を淹れるのに使われた蓋碗の作家さんですね。そういった作家さんやギャラリーの方とはどうやって知り合ったのですか?

大学生の頃からこういう道具が好きで、いろんな個展やギャラリーに通ってたんです。作家さんやギャラリーの方からすると20歳ぐらいの年齢のお客さんを見かけるのは珍しいみたいです。

「経年変化していくものが好き」と語る占野さん。珈琲 占野の珈室には銅製のやかんなど、金属の道具も多い。

神奈川から信濃町への移住と、田舎で珈琲の事業を営むことについて

――お客さんの母数が多い神奈川県から人口8,000人ほどの信濃町に移住して、珈琲の事業をイチからスタートされるのはなかなかユニークな決断だと思います。占野さんの移住の背景を教えていただけますでしょうか。

僕も妻の奈菜子も自然豊かな環境で育ったから、同じような環境の良いところに身を置きたいという思いがありました。そういった精神的な面を考えて、信濃町を選びました。

――田舎の信濃町で珈琲の事業を営んでいて、感じるメリットはありますか?

何かのついでではなく、この場所に流れるこの時間を目的に来てくれているのがありがたいですね。お客さんが最初から「楽しむぞ」とワクワクしてくれているのを感じます。そのおかげでこちらも良い空間を作りやすいです。

さて、そろそろ2杯目の珈琲を淹れますね。

2杯目の珈琲はブラジルの豆を深煎りしたもの。ネルドリップでゆっくり丁寧に抽出。
このような細長いお猪口で頂きました。1杯目とは正反対の、苦味に振り切った焙煎。味の対比が楽しい。
2杯目のタイミングで、妻の奈菜子さんが手作りされた甘味が提供されます。珈琲によく合う。

――信濃町への移住は、具体的にどのように進めましたか?

まず信濃町の移住体験施設の利用を申し込んで、2021年5月に1週間生活しました。滞在中、毎朝ジョギングしていて、走っているときに今の家を見つけました。家が目に入った瞬間に「ここで珈琲屋を開きたい!」という気持ちが湧き上がったのを今でも覚えています。

占野さん宅。緑に囲まれた環境で、とても静か。

――移住者の方は町役場の空き家情報ページで見つけることが多いそうですが、占野さんはご自身の足で見つけたんですね。

はい。実はこの家はそもそも空き家ではなくて、僕が見つけたときは別荘として使われていたんです。そこで当時の持ち主の方に直接連絡して購入の交渉をさせていただいて。手紙を書いたり、電話をしたり、会ってお話ししたりと、いろんなコミュニケーションを重ねました。

最初は持ち主の方から「本当にこんなところで珈琲屋としてやっていけるのか……?」と心配されていましたが、僕と妻の思いが通じたのか、快く譲っていただくことができました。その後リフォームに約1年かけて、2023年の1月に引っ越してきました。

――信濃町に移住してからの生活はどうですか?

まず、都会とは違って真夏でも涼しく過ごせるのが最高ですね。暑いのが本当に苦手なので……(笑)

あとは人と人との距離感がちょうどよく感じます。何日か前にご近所さんがカゴいっぱいのお野菜を持ってきてくれて、そのお返しに水筒に入れた珈琲を差し入れしたんですけど、こういう物々交換のような文化が残っているのも、なんかいいなあって。

――信濃町に移住してからの生活で、驚いたことや予想外だったことはありますか?

まずはやっぱり冬の雪ですね。豪雪地帯だと知った上での移住でしたが、雪下ろしや雪かきは思っていた以上に大変です。

夏は雑草が伸びるスピードに驚いています。刈り取っても刈り取っても追いつかない(笑)

あとは嬉しいほうの驚きで、うちの庭に遊びに来てくれるニホンリスがめっちゃ可愛いんですよ。いつも癒されています。

――移住前と移住後で人生観に変化はありましたか?

まだ移住してから1年も経っていないので何とも言えませんが、必要以上に多くを求めなくなった気がします。この環境で、夕暮れに妻と2人でゆっくりビールが飲めたら十分だよね、ぐらいに考えるようになりました。

――信濃町で一番好きな場所はどこですか?

うちの庭です。ここから見える山や田んぼの景色が素晴らしくて、ベンチを作りました。夕方にここで飲むビールがうまいんですよ。

――お庭では野菜も育ててらっしゃるんですね。

はい、ご近所さんの力を借りて畑を耕しました。最近は畑の世話をするのが一番楽しい時間かもしれません。

占野さんの畑。ジャガイモや芽キャベツ、大葉、ズッキーニ、きゅうり、かぼちゃ、インゲン、トマト、ハーブなどなど多品目を栽培中。

――信濃町で今後やっていきたいことはありますか?

今後も月に1週間の予約制で行う喫茶店「珈琲 ノ 席」と珈琲豆のオンライン販売を軸としながら、作家さんと共につくり上げる空間、出張「珈琲 ノ 席」への出店などを考えています。

将来的には、妻が作る信濃町の野菜を使った甘味のオンライン販売や、丁寧なおもてなしでお客様を迎える“一日一組限定の宿“にも挑戦してみたいですね。

甘味を担当する妻の奈菜子さん。毎月新しいお菓子を作るチャレンジをされていて、「珈琲 ノ 席」を訪れるたびに新しい甘味と出会うことができます。

――最後に、これから信濃町へ移住を考えている方へ何かアドバイスをお願いします。

この町の四季を知るのが大切だと思います。僕たちは春夏秋冬すべてのシーズンで遊びにきたことで、移住後の生活がイメージできました。それでも冬の雪は僕たちの想像を超えてきたので、「真冬に何週間か滞在してたらもっと心の準備ができたかもね」なんて話をしています。

あとは補助金ですね。信濃町が提供している補助金だけでなく、長野県や国の補助金で使えるものが結構あるんですよ。中にはリフォームの着工前に申請しなきゃいけない、という条件付きのものもあるので、事前にくまなく調べることをおすすめします。このあたりをうまく使えば、予算を抑えて移住することもできると思います。

『珈琲』という表現の幅を超えた唯一無二の空間

自然豊かな場所にひっそりと佇む「珈琲 占野」。珈琲のために作られた珈室(こしつ)で味わう、こだわりの珈琲に心が癒されました。

お二人のおもてなしの心とこだわりが詰まった「珈琲 ノ 席」へ一度訪れてみてはいかがでしょうか。

珈琲 占野

Webサイト:https://coffee-shimeno.com

Instagram:https://www.instagram.com/shimeno__/

町民ライター 観音クリエイション

ヒップホップのトラックメーカー、ライター。音楽を作ったり、写真を撮ったり、文章を書いたりして生きています。2020年8月より長野県信濃町に移住しました。

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