ありえない、仕事
【田舎で起業】長野でできたご縁が開業のきっかけに。行列のできるパン屋「EN BAKERY 39!」の谷口さん
静かな冬の野尻湖に、人の列が・・・?
ここは信濃町にある野尻湖。夏は多くの人で賑わう、町のレジャーの中心地です。
ところが冬になると一転、夏の賑わいが想像できないほどの静けさに包まれます。湖で遊ぶレジャー客が少なくなる冬季は、ほとんどの飲食店が休業するのがこの地域のスタンダードなのです。
そんな冬の訪れを目前にした2020年11月、野尻湖に1軒のお店がオープン。寒空の下で多くの人が列をつくっている様子が話題になり、“行列ができる野尻のパン屋”として、町内だけでなく長野県外まで名前が知れ渡った「EN BAKERY 39!(エンベーカリー サンキュー)」です。
店主の谷口さんは大阪出身。 大阪でパン職人としての腕を磨き、自分のお店を持つために物件探しをしていたのも大阪でした。「信濃町のことは全然知らなかった」と話す彼女が、どのように信濃町と出会い、野尻湖畔でお店を出すに至ったのか。行列をつくりだした宣伝方法は?谷口さんがインタビューでその答えを話してくれました。
今回インタビューした方
1ヶ月だけのつもりで来た長野で、移住・開業を決意
――そもそも信濃町には何がきっかけで来られたんですか?
タングラム斑尾(信濃町にあるスキーリゾート) でキッチンカーの仕事をしたことがきっかけです。
当時、勤めていたパン屋を辞めて、自分の店を持つために物件探しをしていたのですが、そのときに大阪で長野県の友人と10年ぶりに再会したんです。 その友達が、タングラムでキッチンカーでホットドックを販売する仕事を手伝わない?と声をかけてくれたんですね。以前からキッチンカーをやってみたいと思っていたので、やりたいことに挑戦できていいなと思い、行ってみることにしました。
信濃町のことは全然知らなかったし、何もわからないけど、とりあえず1ヶ月だけお手伝いするつもりで。
――やりたかったことができるチャンスが偶然舞い込んだのですね。実際にやってみていかがでしたか?
たくさん友達ができて、いろんな方と知り合えてすごく楽しくて!結局1ヶ月どころか、3月のシーズン終わりまで4ヶ月間働きました。
そのときに周りから 「パン屋やるなら長野でやってよ、この辺パン屋少ないから」と言われることがすごく多かったんです。みんなは冗談半分で言っていたと思いますが、その当時わたしは大阪でピンとくる物件が半年以上も見つからず、大阪でお店をする自信がなくなってきていたので、こうして長野に来ることになって、たくさんの方と知り合えたのも何かの縁だし、長野に移住して起業するのもアリかもしれないと思い始めて。そのことを2019年の2月の1ヶ月間ずっと悩んだ結果、やろうって決めて、3月には長野に住むところを決めました。一度大阪に帰って引っ越しの準備をして、その春には長野に来たという感じです。
――決断も早いし、行動もめちゃくちゃ早いですね!
すごく良い縁がつながったので、こんなことなかなかないって思ったんですよね。だから「ご縁ありがとう」の意味も込めて、お店の名前を「EN BAKERY 39!」にしました。
バスの停留所だった建物を、またたくさんの人が集まるような場所に
――大阪では物件探しに苦労されていたということでしたが、信濃町ではどのようにして今の物件を見つけたんですか?
友人に、野尻湖の近くにある物件を使っていいよと言ってもらって、地元の大工さんであるGOOD TIME BUILDの林拓さん と一緒に見に行ったんです。すると、お店として使うにはかなり改修が必要だということが分かり、 二人で「どうしよう」と言いながら、その周りをウロウロしていたときに、偶然見つけたのが今の場所です。友人に物件の持ち主さんに取り次いでもらうと、快く中を見せてくださって、中を見たその日に「ここにしよう!」と即決しました。
――バスターミナルだった場所なんですよね?
そうなんです、 もとが飲食店ではなかったので、基礎工事からしないといけない状態ではありましたが、できるだけバスの停留所の面影を残すように改装してもらいました。以前のようにたくさんの人が集まるような場所にしたいと思ったのと、地元のお客様には懐かしさを感じてもらえたらと思って。
――改装しているところをインスタグラムにアップされていたのをリアルタイムで拝見していましたが、こちらまでワクワクしたのを覚えています。
今でも宣伝に使っているのはインスタグラムだけなのですが、参加応援型というか、町に新しいお店ができる様子を地元の方に見てもらえたほうが愛着が湧くかなと思って、応援してもらえたらいいなという気持ちでオープン前から発信していました。
改装中は、通りすがりの方に 「何屋できるんですか?」と聞かれたり、施工をしてくださっていた林さんのお知り合いが遊びに来てくださったりすることも多く、少しずつ町の方に知ってもらえている実感がありました。
――林さんともタングラムで知り合われたのですか?
いえ、開業するにあたり、信濃町の起業塾を受けたのですが、そこで先輩塾生として話をしにきてくれたのが林さんでした。前からお名前は知っていたのですが、起業塾ではじめてお会いして、林さんの過去の施工例を見せていただきました。どれもすごくかわいくて、ぜひわたしのお店もお願いしたいと伝えたところ、信濃町のお店はできるだけ自分が作りたいと思っているから、ぜひやらせてほしいと快諾してくれました。
「起業塾(起業等人材育成支援事業)」とは
起業等人材育成支援事業(信濃町)
信濃町で新しい事業を起こす起業家の方、または既存の経営の改善・変革となる「第二の創業」を目指している経営者の方、若手経営者及び後継者、幹部育成のために、経営者としての心構え~収益性・資金調達方法~経営計画(ビジネスプラン)作成までを具体的な起業事例等を交えながら、体系的に学ぶ機会を提供し、参加者の起業等に対する包括的な支援を行ないます。
――起業塾ってビジネスについて学ぶ以外に、そんなふうに人とのつながりもできるんですね。起業塾を含め、町の起業支援はいかがでしたか?
起業塾は、先生がすごくいろんな方と繋げようとしてくださるので、コネクションが広がってとても良かったです。
信濃町役場の移住促進担当の方にも相談に行ったのですが、すごく力になってもらいました。わたしが使える補助金を調べてくださったり、長野県の補助金申請に必要な書類づくりで困っていたときは、とても親身なアドバイスをもらいました。役場の担当の方々のおかげでお店を構えることができたと、本当に感謝しています。
時期外れの11月にグランドオープン。たくさんの人に支えられて続けられた
――そして開業後ですが、9月のプレオープンからすでに行列ができていてすごいですよね!
ありがとうございます。町内の方がたくさん来てくださったようでとてもうれしかったです。
本当は9月中にグランドオープンの予定だったのですが、電気工事の遅れで11月になってしまって、周辺でお店をされている方は「あらら・・・」という感じでした。 以前から「冬は野尻はお客さんいなくなるよ」と言われていたのに、周りのお店が休業に入る時期にオープンするという(笑)。
でも、2月の雪の中でもみなさん並んでくださったので、野尻で商売をされている方には、冬もお店を開けていたら人が来るんだと思ってもらえたのではないかと思います。先入観を覆すというか、冬でも可能性があることがわかって、町が元気になるきっかけにはなれたかなと。その点は良かったなと思っています。
――やはりインスタグラムを見てこられる方も多いですか?
そうですね、インスタグラムで新商品をみたと言ってくださる方や、「実家に帰ったときには行こうと思っていました」とお盆やGWに帰省された際に来てくださる方もいます。それまでインスタグラムは若い人だけしか見ていないかなと思っていましたが、かなり幅広い層がインスダグラムから情報を得ていることに気付かされました。
他には、近隣に別荘をお持ちの方がリピートしてくださったり。上越方面からのお客様も多いです。
――信濃町に来たついでに、ではなくて、このお店を目的地にしてくださるのは嬉しいですね!でもはじめはひとりで営業されていたので、相当大変だったんじゃないですか?
オープン当初はひとりだった上に、営業日が今より多かったので、はじめの3ヶ月ぐらいは休みが全くなくて、今思えば自分でもよくやっていたなあって思います(笑)。はじめの頃は銀行に行ったり書類関係の手続きも多かったですしね。週末に友人が手伝いに来てくれたから、なんとかやれていました。
冬は近所の方が駐車場の除雪をしてくださったので、本当に助かりました。近所の方々がいい人ばかりで、とてもよくしてくださってありがたいです。ひとりでは絶対ムリでした。
――今はスタッフさんが増えたんですよね。製造ができる方も増えたとか。
インスタグラムで求人募集したら、けっこう応募してきてくれて。アルバイトスタッフ数名と、正社員雇用しているパティシエ経験者が1名います。正社員を雇うって責任が重いので、すごく悩みましたが、来てもらうことにして良かったです。仕込みをふたりでできるようになったし、商品を考える頭がふたつになったのでいろんな面で楽になりました。ここで働いて楽しいと思ってもらえるように、新商品を考えてもらうなど、やりたいことをどんどんしてもらえるように提案しています。
――開業1年目から町に雇用を生み出しておられてすごいです!商品づくりの際にこだわっているところはどんなところですか?
できるだけひとつひとつ手作りで、近隣の農家さんから野菜や果物を仕入れさせてもらって、長野のものをできる限り使うことですね。今はバターなど原材料の値段がどんどん上がっていますが、妥協せずにこだわって素材を選定して、安全でおいしいものを届けられるように心がけています。
あとは、食べたときに中に具がいっぱい入っているというのがうちのウリです!
長野の良さを伝え、地域に還元できるパン屋が目標
――まもなく1周年ということですが、2年目以降の目標ややりたいことはなんですか?
どんどん出張販売したいと思っていますし、うまくいけば通販もして、いろんな地域の方に商品を届けられるようにしたいです。先日、大阪で開催されたイベントに商品を置いてもらって委託販売をしてもらったのですが、そういうことをきっかけに、長野のいいところやいいものを他の地域の方に知ってもらえる機会を増やせたらと思っています。
あとは、もっといろんな農家さんや異業種の方と繋がって、一緒に協力してやっていきたいというのも元々思っていたことです。これまでもコーヒー屋さんをしている友達に来てもらってポップアップをしたりしたのですが、この建物をもう少し活用して、コーヒー屋さんを呼んだり、いろんなお店の方が催事のような形で使えるスペースを作りたいと思っています。
――町外からいろんなお店が来てくれると、町の人の楽しみも増えますね!
町の人に応援してもらい、助けてもらってはじめることができたお店なので、町の人に愛されて、地域の方が気軽に来てくれるパン屋でありたいといつも思っています。なので、今後もどんどん地域の方に還元できるようなことに参加したり、企画したりしていきたいです。
まとめ:リアルとSNSの両方で人を引き寄せる、谷口さんの行動力
信濃町に移住する前も後も、自分の叶えたい夢に向かってどんどん行動を起こしていくことで、たくさんのキーパーソンとの縁を掴んでいった谷口さん。
地域の人とのリアルなつながりも大切にしながら、SNSも上手く活用してさらに多くの人との縁を紡いでいく姿は、これから新しい地域に飛び込んでビジネスをやってみようという方にとって、ひとつのお手本となるのではないかと思いました。
これをきっかけに賑やかになっていくかもしれない冬の野尻湖。どんな様子か見てみたい!という方は、しっかり防寒をしてお越しになるか、谷口さんが発信するインスタグラムを覗いてみてくださいね。
EN BAKERY 39!(エンベーカリーサンキュー!)
住所: 長野県上水内郡信濃町野尻257-1
営業時間: 4月〜11月 10:00~売り切れまで、12月〜3月 13:00~売り切れまで
休業日:不定休のため下記Instagramにて営業日をご確認ください
Instagram: https://www.instagram.com/en_bakery_39/