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閉塞感からの脱出。北山さんが48歳で迎えた転機。二地域居住がもたらした人生のゲームチェンジ

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閉塞感からの脱出。北山さんが48歳で迎えた転機。二地域居住がもたらした人生のゲームチェンジ

東京と信濃町を行き来する北山家の生活

石川県金沢市出身の北山さんは、2021年6月から東京と信濃町を行き来する二地域居住を始めました。信濃町は妻の千晶さんと出会った思い出深い場所であり、新型コロナウイルス感染症の感染拡大をきっかけに、北山さんにとって第二のホームタウンとなりました。現在は2人のお子さんを含む家族4人で、月に2~3回ほど信濃町での暮らしを満喫しています。

北山さんは「今の生活は単なる贅沢ではなくて、僕にとっては人生を変えるための大胆な挑戦だったんです。閉塞感からの脱出するための、強引ながらも必要な一歩でした」と語ります。

表面上は成功と見えるキャリア、経済的余裕、リモートワークの自由さ。しかし、それらの裏には、深い閉塞感が潜んでいました。

今回は北山さんが金銭的なリスクを背負ってでも二地域居住をしようと決意した背景、そして信濃町での新しい生活を通じてどのように人生を再構築し、かつての閉塞感を乗り越えて自由をつかみ取ったかについてお話を伺います。

※ 本記事では、ゲームが大好きな北山さんの人生観をより深く伝えるために、意図的にゲーム用語を多用しています。人生をゲームに例えて、各ステージを乗り越えながら、「ラスボス(最後の敵)」を目指す。この表現は、北山さんの考えや感情を直感的に伝えるために選んだものです。

今回インタビューした方

二地域居住への転機:北山さんの大胆な一歩

――そもそも、北山さんはなぜ二地域居住を考えたのでしょうか?

実は、多くの人が考えるような「リモートワークだから場所にとらわれない」「東京にいる必要がない」というような明るい話ではなかったんです。僕にとって二地域居住は「閉塞感から脱却するために、考えに考え抜いてひねり出した決死の一手」でした。

――閉塞感、決死の一手。いつもニコニコしている北山さんからそんな言葉が出てくるとは思っていませんでした。仕事も遊びも充実していて、悩みごとなんて持たないタイプの人かと。

はたから見たら僕のキャリアは順調に進んでいるように見えるかもしれません。でも実際は会社の一部として働く中で、本当の自分が何を望んでいるのかわからなくなりつつあったのです。

企業に勤めてキャリアを進めるということは、「その会社で代替可能な優秀な歯車になる」ということです。それを長年突き進めていたら、なんとなく「自分自身が消えていくような感覚」を持ち始めました。

――北山さんという素材を削り出して歯車にしていく過程で、北山さんの人間性をつかさどっている大事な部分まで削られてしまうような?

そう、そんな感覚です。「その対価としてお金をもらえるのが会社員だよ」と自分を納得させながら、騙し騙し生き続ける道もあったとは思います。けど同時期に、自分が稼いでいるお金についても疑問を持ち始めました。「稼いではいるけど、このお金で何をしたいんだろう?」って。

たとえばドラクエやFFみたいなRPGにはラスボスがいて、それを倒すのが最終ゴールですよね。主人公は目の前の敵を倒して、経験値を得てレベルを上げて、ゴールドを貯めて新しい武器を買って、自分を高めながらストーリーを進めて、ラスボスに近づいていく。けれど僕の人生というゲームには、ラスボスがいないんです。ただ目の前の敵を倒して経験値とゴールドを貯めているだけ。

そこでふと思いました。「俺のラスボスって何だろう。ラスボスがいないのになぜ俺はゴールドを貯め続けているんだろう。人間性を削るような生き方を、本当にこのまま続けるべきなのか?」って。

――ストーリーが進まず、❝作業ゲー❞(ゲーム内でレベル上げや資金稼ぎなどの単純作業を繰り返すこと)と化してしまっているような期間があったんですね。

そうです。それに加えて、リモートワークで得たはずの時間と場所の自由も、結局は家に閉じこもる日々。人間関係が希薄になっていくことが、どんどん不安になっていきました。

歯車になりながら自分を失っていく不安、ラスボスがいない不安、人間関係がなくなっていく不安。これら3つの不安はコロナ禍が続く中で、さらに深刻になっていきました。「このままじゃダメだ。僕自身が変わる必要がある。そのために具体的に何かを変える必要がある」そう感じたのが、二地域居住の選択肢を考え始めたきっかけです。

――自分を変えて、不安から脱出するために生活環境を変えてしまおう、と。

はい。強制的に人生のステージを変える、ゲームチェンジャー的な一手でした。今振り返っても、我ながら良い判断をしたなと思います。

人生再構築:信濃町での住宅購入決断

――北山さんの二地域居住のはじまりにはそんな背景があったんですね。ただ、東京でご家族との生活の拠点がすでにある状態から、環境を大きく変えるのは難しくなかったですか?

もちろん難しい部分もありました。まずはお金の面ですね。「田舎に第二の家を持つ」というと、一見、経済的余裕がある人間の贅沢な遊びのように映るかもしれません。でも実際は全然そんなことなくて、僕は人生の方向を変えるために、大きな金銭的なリスクを冒しただけなんです。「この不安から脱却するためなら、貯金を大きく取り崩してしまってもかまわない」と決心していました。

家を購入する段階では、妻の理解を得るのが大変でした。妻には二地域居住の計画を事前に話していなかったので、彼女からすれば寝耳に水。いきなり「信濃町を第二の拠点にしたい、家の内見に行こう」と伝えて、内見に連れていき、その日のうちに「ここを買おう」と妻に言ったんです。

――スピード感がすごい。

家の内装を見た瞬間、心が震えました。美術館のようなエントランスや、線対称になっているデザインがとても素敵で、「ここに住むんだ!」と感じたことを覚えています。

――突然の出来事の連続に、奥さんはどんな反応だったんでしょうか?

「この家を買おう!」と伝えたその日、それまでで一番大きな夫婦ゲンカをしましたね(笑)。

妻を説得するのは根気が要りましたが、最終的には「絶対楽しいから!」という僕の熱意に彼女も納得してくれて、2021年6月に家の売買契約を結びました。

――なるほど。ちなみに、信濃町を選んだのはなぜでしょうか?

信濃町と白馬村の二択で迷って、最終的に高速道路のインターチェンジから近いという理由で信濃町を選びました。東京からもアクセスしやすいし、実家がある石川県へ帰省するにも便利。また、信濃町は妻と出会った場所で、縁がありました。

二地域居住の日常:普通の生活では得られない経験を楽しめる

――二地域居住をしてみて、実際いかがですか?

ぜいたくな時間の使い方をしているなと実感します。例えばある日は22時まで秋葉原で友人と遊んで、翌日には信濃町で雪かきをしている。都会と田舎の生活のギャップがおもしろいです。田舎ならではの景色の良さも二地域居住の魅力といえます。東京は高層ビルばかりで季節感がないのですが、信濃町では四季の移ろいを全身で感じられます。 2年前の大雪のときは冬が厳しすぎて春が本当に待ち遠しかったです。あの感覚は言葉で伝えることが難しいのですが、あの思い出があるから夏の暑さも価値が変わってきます。

製薬会社で働いている妻は現在もリモートワークなので、東京にいると1週間外出しないことも珍しくありません。外の景色をほぼ見ないので、彼女いわく「オンとオフの切り替えが難しい」と。そんなときに信濃町に来ればリフレッシュできます。いわば究極のサードプレイスですね。気分転換したいときに逃げ込める場所があるのは、本当に良いことだと思います。

あと二地域居住は旅行と違ってチェックイン・チェックアウトの時間を気にする必要もないですし、荷造りが楽なのが良いですね。持ってこなきゃいけないのは普段使っているノートパソコンぐらい。生活に必要なものの大半は信濃町の家に置いています。

――東京から信濃町までの移動は車ですか?

はい、基本車ですね。3~4時間で着きます。金曜日の夕方に東京の自宅でお風呂に入って、子どもたちはパジャマで車に乗り込んで、夜のうちに信濃町に到着してそのまま就寝。週末はしっかり遊んで、日曜日の夜に東京に戻って月曜日から普通に出勤する、というのがいつものルーティンです。

――信濃町での生活をどのように楽しんでいますか?

思いきり趣味を満喫していますよ。スノーボードに自転車にゲーム、好きなことは何でもできます。東京の家と違ってテレビを置いていない、ということも時間の使い方を変えてくれている気がします。朝に黒姫山や野尻湖の辺りを自転車で走って、それから朝食を食べて仕事をするのが最高に気持ちいいです。

遊びだけでなく、こちらでの生活を通して人生の振れ幅がぐっと広がりました。まさか自分の人生でエンジン式の草刈り機で雑草を刈ったり、丸のこでDIYしたり、薪割りをしたりするとは思っていませんでした(笑)。

――北山さんは多趣味で、人生を積極的に楽しもうとしている姿勢を強く感じます。この考え方はどこから来ているのでしょうか?

誰かとつながる手段として趣味を活用したい、という気持ちが原動力になっています。ゲームもスノーボードも、家族や友人と楽しい時間を共有するためのコミュニケーションツールですね。

信濃町の家を買った理由も、突き詰めていけば同じです。みんなで集まれる場所やコミュニティを作りたい、そんな思いが根底にあります。

信濃町の魅力:多様なバックグラウンドを持つ人が集まっている

――信濃町での交流の輪は広がりましたか?

信濃町役場の定住支援員の方が移住者とのつながりを作ってくれたおかげで、知り合いが増えました。仕事の利害関係抜きで地元の住民と仲良くなるのはハードルが高いと感じていましたが、きっかけがあれば何とかなります。

ご近所の人とは2年ほど時間をかけて仲良くなって、今では飲み友達です。元自動車メーカーのエンジニアや現役の獣医師など、さまざまな経歴の持ち主が集まっています。散歩に行くと話しかけてくれるのが嬉しいですね。

信濃町の住民は開放的で気さくな人が多いので、自分から積極的に仲良くなろうとする姿勢があれば受け入れてもらいやすいのではないでしょうか。

北山さんから二地域居住を検討する人へのメッセージ

――最後に、二地域居住を実現したい人へのアドバイスがあればお願いします。

「お金はかかるけれどそれ以上に得られるものがある」ということをお伝えしたいです。二地域居住って、生活費が増えますし、移動の手間もかかります。経済合理性を優先する人にとっては無駄が多く感じるはずです。

ただ「合理的 = 正解とは限らない」というのが僕の持論です。合理性を無視した“愚行力”は人生のゲームチェンジャーになりえます。ゲームでもストーリーから逸脱したサブシナリオで、素敵なレアアイテムがみつかるようなことがあります。

僕の場合はそれが信濃町の家でした。多くの人にとって「無駄づかい」と感じられるであろうこの家を買ってから、ゲームで例えるなら身につける装備や使う道具、発生するイベントがガラッと変わって、人生経験も人間関係も爆発的に広がりました。一見無駄に思えたこの先に、僕の新しいシナリオや真のラスボスが立っていて、新しい別の人生のゴールが見つかるように思います。

二地域居住をするか迷っている人に、僕が好きな言葉を贈りたいです。

「迷ったらワイルドな方へ」

まとめ:二地域居住で人生の振れ幅が広がる

北山さんの二拠点生活を通じて、信濃町で築かれつつある新しい人間関係や人生経験は、かつての閉塞感を脱する象徴となっているように思いました。

北山さんのように時には大胆な一歩を踏み出し、新しい道を探求することで、人生は予想以上の豊かさと満足をもたらすかもしれません。皆さんも北山さんのように、自分自身の人生を再定義するチャンスをつかんでみてはいかがでしょうか。

町民ライター 観音クリエイション

ヒップホップのトラックメーカー、ライター。音楽を作ったり、写真を撮ったり、文章を書いたりして生きています。2020年8月より長野県信濃町に移住しました。

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