
ありえない、田舎
信濃町に一週間、住んでみた──ふるさと移住体験施設で見えた“暮らしのリアル”
「暮らすように泊まる」って、どんな感じだろう。観光ではなく、日常の時間をこの町で過ごすと、どんな景色が見えてくるのだろう。
そんな問いを胸に、信濃町の”ふるさと移住体験施設”で一週間を過ごした方にお話を伺いました。買い物や散歩、地元の人との交流。暮らしの中に小さな発見があふれていて、ただの旅行では味わえない温度を感じられたといいます。
信濃町ふるさと移住体験施設とは?
信濃町へ移住を検討している方が3泊4日以上滞在する場合に利用できる移住お試し住宅。
田舎暮らしを体験できる他、町役場の移住定住担当職員に移住に関する相談をすることができます。
予約や利用条件の確認はこちら↓
https://shinanomachi-iju.jp/experience/
今回インタビューした方
ガブリエレ久保さん
神奈川県茅ヶ崎市在住。同市を拠点にフラワースクールを運営する。
信濃町には20年来の縁があり、今回初めてふるさと移住体験施設を利用。娘さんとともに8月に一週間信濃町に滞在した。

ふるさと移住体験施設を利用して

― 今回、信濃町の移住体験施設を利用しようと思ったきっかけについて教えてください。
空き家情報を探していた時、信濃町のホームページでこの施設を見つけました。信濃町には20年前から通っていて、野尻湖国際村の貸別荘を利用したのが最初です。その後も全国に700人ほど仲間がいるAFWJという団体を通じて訪れる機会が増え、もう数えきれないほど来ています。だからこそ、「短期ではなく、住むように滞在してみたい」と思ったんです。
― 施設に到着したときの最初の印象はいかがでしたか?
一言で言えば「安心」。平家で清潔感があって、到着した瞬間から“ここなら住める”と感じました。とても整った状態の空間で迎えてくれて、それが本当にありがたかったです。
― 一週間の暮らしで印象に残っていることは何でしょうか?
信濃町では、スーパーや道の駅でまとめ買いをするのが当たり前の暮らしでした。茅ヶ崎では、歩いてすぐに行けるスーパーが二軒あり、必要なときに少しずつ買うのが習慣です。対して信濃町では一度にどっさり買うスタイル。その違いが生活のリズムを変え、特に道の駅で手に入る珍しい野菜は滞在の楽しみのひとつになりました。

特に印象的だったのは「Vrac Market(バラックマーケット)」という、オーガニック食材を扱うお店。週に2回地元野菜を使った食堂の営業があって、そこで紫芋の餃子やナスのフライを食べたのですが、どれも驚くほど美味しくて。おしゃれで持続可能性のある仕組みを、こんな田舎町で体験できることに驚きました。
また、野尻湖にある「LAMP」は、私が信濃町に通い続けている理由のひとつです。サウナやゲストハウス、レストランを目的に都心部から多くの若者が訪れるこの施設は、森の中にありながら常に活気にあふれています。その「活気」こそ、私にとってLAMPに足を運ぶ最大の魅力。野尻湖でのコーヒータイムには、ここのレモンケーキをぜひおすすめしたいです。
あとは、国際村で友人たちに会えることも毎回の楽しみですね。国際村は私にとって信濃町で最初の「ホーム」。今でも一番のお気に入りの場所です。
― 町の人との関わりもありましたか?
はい。滞在中に移住体験施設の目の前で開催された「流しそうめんイベント」に参加したんです。地元の子どもたちや親御さんと一緒に、竹を割って流しそうめんをしたり、とうもろこしやじゃがいもなどの地場野菜を分け合って食べました。都会ではなかなか味わえない距離感で、自然に人が集まって会話が生まれる。とても心地よかったです。芝生の上で子供たちが楽しそうにスイカ割りをしていた光景が印象に残っています。


それに交通の場面でも、人の温かさを感じました。バスの運転手さんが5000円札を崩すのにわざわざ付き合ってくれたり、タクシーの運転手さんが「出かけるときは家の電気はつけっぱなしにしたほうが安全だよ」と教えてくれたり。小さなことですが、こういうやりとりの積み重ねが「暮らす安心」につながっていると感じました。


運行は平日のみで、運賃は1乗車200円。
― 滞在中はどんな日常を送っていたのでしょう?
朝は移住体験施設の敷地内の芝生に出て、つゆで濡れた草の上を裸足で歩きました。足の裏からひんやり伝わる感覚は、本当に贅沢でしたね。

昼間は移住体験施設内でパソコンを広げて仕事。施設には机も整っていて、窓から見える景色に癒やされながらリモートワークできました。都会では「仕事と暮らし」をどう切り替えるかが課題でしたが、ここでは自然とスイッチが入るように感じました。


それから、水の良さを改めて実感しました。特に蛇口から出る水の冷たさは、都会では味わえない贅沢さです。洗面台で冷たい水に腕を浸すと、体がスッと冷える。この施設内にはエアコンがありませんでしたが、快適に過ごすことができました。都会の暑さを考えると、夢のようです。

― 帰る日の気持ちはどうでしたか?
野尻湖に続く道を歩きながら、「もう少し居たいな」と思いました。私は湖の近くで育ったので、水辺がある町は“帰ってきた”ような安心感があります。信濃町の風景は、どこか懐かしく、でも新しい発見がある。そういう素晴らしい魅力があります。

― 今回信濃町に「暮らすように滞在」した中で、自分自身にどんな変化がありましたか?
信濃町は「何もない」と言う人もいますが、私は逆に「可能性だらけ」だと思いました。古い建物を見ても「どう活かせるかな?」と考えると、楽しくて仕方ないです。
そして、親子で一緒に過ごした時間がとても大きかったです。普段の生活だと、仕事に追われて疲れてしまってゆっくり話す時間が取れない。でもここでは散歩したり、買い物したり、とにかく一緒に行動することが多くて、親子の関係が深まった気がします。
― 信濃町への移住計画は進みそうですか?
本格的な移住を視野に入れています。娘は通信制大学に通っているので、どこに住んでも問題ありませんし、私自身もフラワーアレンジメントの仕事を信濃町で展開できると感じています。
ただ、その前に冬の生活を体験してみたいですね。雪かきや寒さの中での暮らしを知ることは、移住を決めるうえでとても大事。季節ごとに違う町の表情を、もっと味わいたいです。
― 最後に、地方移住を考えている人へのメッセージをお願いします。
まずは移住体験をしてみてください。車があると便利ですが、あえて車なしで過ごす期間も作るといいと思います。不便さの中に人との関わりが生まれて、「町のリアル」が見えてきます。
信濃町は湖と森に囲まれた、可能性のある町だと思います。自然が豊かなだけでなく、人や文化とのつながりもある。ここで過ごした時間は、私にとってとても豊かでしたし、また必ず戻ってきたいと思える体験になりました。
まとめ

一週間の滞在を取材してみて感じたのは、観光では見えない暮らしの輪郭でした。買い物や食事、この町で暮らす人とのやりとり。その積み重ねが「信濃町で暮らす」という実感につながっていきます。ガブリエレさんの言葉どおり、移住体験施設は移住を迷っている人にこそ試してほしい場所だと感じました。信濃町での移住体験の日々は、未来の暮らしを思い描くためのヒントにきっとなるはずです。