ありえない、仕事
【信濃町ランチ】季節の花々と信濃町の自然を堪能できる「黒姫食堂」。ここでしか味わえない特別な時間
こんにちは、町民ライターのAyaco*です。
信濃町の集落から少し離れた森の中に、四季折々の花々が彩るお庭とともにひっそりと佇むカフェレストランがあります。お庭に入った途端に、ゆったりとした時間が流れはじめ、別世界に迷い込んだような気持ちになります。
まるで隠れ家のような「黒姫食堂」を営む関さんは、運命的に出会ったこの場所が気に入り、30年以上暮らした地を離れ、信濃町にやってきたそうです。この不思議な時間の流れは、どのように作り出されているのか、お話を伺ってみたいと思います。
今回のインタビューは黒姫食堂のおふたり
関 美子(せき よしこ)さん・千草(ちぐさ)さん 東京で30年以上暮らし、10年ほど前から信濃町と東京の二拠点生活。美子さんの定年退職を機に信濃町へ家族で移住し、2017年12月に「黒姫食堂」をオープン。 |
運命的だった信濃町との出会い
──こちらに移住して来られる前のお話を聞かせてください。
美子さん:
特に飲食関係の仕事ではなく普通の会社員でした。山が好きで、年に数回は必ず家族でスキーや登山を楽しむために長野県に来てましたね。この子がうんと小さい頃から。今から10年くらい前にここの土地を手に入れたので、そのときから週一で通って野菜作りを始めました。
──二拠点生活のような感じですね。
美子さん:
そうです。東京と信濃町のあいだを週一で通うのは結構大変でしたが。東京でも市民農園を借りて週末に野菜作りをそれなりに楽しんでいたんですが、信濃町では野菜作りの規模感も大きくなり、充実感がまったく違いました。
──購入されたときから移住も考えていたんですか?
美子さん:
すぐにではなく、ゆくゆくは移住もありかな、ぐらいの気持ちで具体的な計画は何もありませんでした。夫はいつか農業をやりたいと考えていて、それで信濃町に限らず、長野の中を広範囲にいろいろ見ていたんです。その中でもここの畑の状態が一番よかったんですよ。直前まで使われていたということもあって、苗を植えればいつでも畑が始められるような状態で、近所の方もいろいろ教えてくれましたし。まわりの風景も気に入って……。
──信濃町の中でもここだけ空気が違うというか、本当に素敵な場所ですよね。
美子さん:
実は、移住を考える前に一度、偶然この場所を通りかかっていて、「素敵な場所だな」と思っていたんです。いざ土地を探し始めて、この場所を見たときに「もしかして、この場所は!」って、以前通りかかっていた場所だって思い出したんです。
──運命的な出会いだったんですね!
風に木がそよぎ、鳥が鳴き……自然の音の中で過ごす心地よさ
──移住されてから気づいた都会との違いってありますか?
美子さん:
来たばかりのころは、この環境がすごく非日常的に感じられました。たとえば、海に行けば浜辺やデッキチェアでゆったりするじゃないですか。それと同じで、森の中でいつのまにかお昼寝しちゃったような気分というか(笑)。そういうリゾート気分が、日常生活になったという感じでしたね。
千草さん:
ここにいると、人工的な音が全然なくて、自然の音だけ。木が風に揺られてザァーって鳴ったり、鳥が思った以上にうるさかったり(笑)。でも、嫌なうるささじゃないんです。
美子さん:
田舎に住んでいると静かすぎて寂しいんじゃないかと、都会の人からは思われがちですが、外に出て自分が自然の中に溶け込むと、風の音が聞こえてきて鳥たちがいっせいに鳴き始めるので、心地よい音に浸れます。そういうのがいまだにすごく新鮮で、いいな、素晴らしいなって思います。
千草さん:
たまに東京に行くと、人工的な音にあふれていて、うるさく感じるんですよね(笑)。
──こちらに住んでみて、変わったこととかありますか?
千草さん:
東京の家にも小さなお庭があって、父と母は土いじりが好きなので、花を育てたりしていたんですが、私は全然興味がなかったんです。でも、ここに引っ越してからは、植物に詳しくなりました。星がすごく綺麗に見えるので、夜に起きて星を調べたり、自発的に自然を楽しむようになりましたね。
──お庭を案内していただいたとき、お花の名前がどんどん出てくるので、お花がお好きなんだなと思っていました。
千草さん:
信濃町に来てからは外に出るといろいろ調べたりするようになって、このまわりの植物のことだけは詳しい自信がありますね(笑)。
この庭にいると体内時計が狂います(笑)
──さっきから感じているんですが、ここだけ時間の流れが違うような……すごくゆったりした時間が流れていませんか?(笑)
美子さん:
自分でもすごいなと思ってたことがあって。東京にいたころはだいたい1時間で作業をやめようって決めると、時計を見なくてもピッタリ1時間でやめることができてたんですよ。でも、ここは、なんかね……体内時計が狂いますね(笑)。
──(笑)。
美子さん:
1時間だと思ってたら、2時間ぐらいたってたりするんですよ。その日その日のスケジュールに追われてないということもあるのかな。時間の流れはたしかに違いますね。
千草さん:
母が「ちょっと外に行ってきます」と言ったまま、2〜3時間帰って来なくて心配になることもあります(笑)。お庭にいることはわかってるんですが、呼びに行かないと帰ってこないこともあって(笑)。本当に母は、ここでの暮らしを満喫してますね。
美子さん:
満喫してると思う(笑)。
千草さん:
よかったね(笑)。確かに都会とちがって時間に追われるとか、仕事に追われるとか、何かに追われる感覚がないですね。もちろん、やらないといけないことはたくさんありますけど、のんびりというか。
美子さん:
のんびり遊んでいるかっていうと……。
千草さん:
忙しいのは、忙しいよね(笑)。
美子さん:
やることは、たくさんあるんですが、「これをやっておかないと、誰かに何か言われるかもしれない」とかは全然気にならないですね。そういうストレスがないです。
──時間の使い方も変わりますね。
千草さん:
東京にいると、昼夜逆転するくらいの感覚で、朝は起きないですし、夜も遅くまで起きている生活でした。でも、こっちに来てから、朝は起きられるようになりましたね。
美子さん:
起きる時間も早いよね。
千草さん:
朝5時ごろからご近所さんの出荷のお手伝いしてるんです。そのために夜は10時すぎには寝たいので……健康的な生活になりましたね。整いました(笑)。
料理と一緒に、まわりの自然を堪能してほしい
──とくに飲食業のご経験もなかったそうですが、なぜ黒姫食堂をオープンさせようと思ったのでしょうか?
美子さん:
信濃町は野菜がおいしいじゃないですか。週一で畑に通って作ってるときに、何かの種を植えるとちゃんと野菜ができちゃうんですよ(笑)。1週間前は小さかったトマトやキュウリが、1週間後に来るとすっかり大きくなっていて。しかもそれがおいしい。だから「この野菜を使えばできるんじゃない?」みたいな(笑)。
──信濃町のおいしい野菜を、もっとたくさんの方に食べてほしくて始めた?
美子さん:
「おいしい野菜を、おいしく提供したい」というのと、ここの環境がすごくいいので、「信濃町でしか味わえない季節感をここに来る人たちに感じてほしい」と。
千草さん:
この庭がいいので、じゃあここで料理も出してみよう、みたいな感じです。
美子さん:
ちょっとした思いつきですよね。気まぐれというか(笑)。
──まったくの未経験で大変じゃなかったですか?
美子さん:
勉強はしましたよ。移住する前に会社勤めしながら、カフェ開設講座に半年くらい通いました。
千草さん:
時間はかかったよね。
美子さん:
10年くらい構想を練ってました。
──内装もすごく素敵で、カウンターの奥の大きな窓が印象的ですよね。
美子さん:
まわりの景色を、店内からもそのまま見られたらいいなと思って(笑)。本音を言うと、お店の中にいても外にいるみたいにしたかったんです。
千草さん:
施工会社さんに怒られちゃったよね。「建築には機密性も大切ですよ」って(笑)。
美子さん:
「壁全部に窓は開けられません」って(笑)。この周辺全部をそのまま、ここに来た人に堪能してもらいたくて。料理と一緒に、まわりの自然を楽しんでください、と。
──食事だけでなく、この空間、この場所を楽しんでほしいと。
美子さん:
自分たちが「庭を楽しみたい、自然を楽しみたい」という考えが先にあったので、お客様にもそれを楽しんでいただけたらと。
千草さん:
お客様にも、ときどき言うんです。メニューを渡しながら、「おすすめは?」って聞かれると、「自然が一番です」って(笑)。ついでにご飯も食べられますと(笑)。ですから、お客様には好きな席を選んでいただいて、召し上がってただく感じですね。自分だけの世界を作っていただいて、好きなものが見えるところで。
──今後、黒姫食堂でやっていきたいことはありますか?
美子さん:
さらに庭づくりに力を入れていきます。今は次の花が咲くまで間隔があいてしまう時期があるので、途切れることなく次から次へと季節の花が咲いていく、いつ来ても花があって楽しんでもらえる庭にしたいなって思っています。
そして、庭の中にテーブルを置いて、屋外でも食事できるようにしたいと構想中です。今でもワンちゃんを連れてこられた方には、庭先の席をご用意していますが、庭の中にもテーブルを置けるといいなと。
千草さん:
犬を連れていなくても、ご希望の方には庭先の席をご案内しています。そうすると地域猫ちゃんが、横についてくれます(笑)。
美子さん:
外で食事をした後に、「気持ちよかった」っておっしゃっていただけるのは嬉しいです。気持ちいいのは知ってるんですけど(笑)。
──「でしょ?」みたいな(笑)。
美子さん:
自分以外の人に同じように感じてもらえるんだって思うと、嬉しい。今後はお庭でピクニックスタイルにできるメニューも作れたらいいなと思っています。
──秋なら紅葉狩りもいいですね。
千草さん:
いいですね。紅葉も、お客様にお見せできるようになるまで3〜5年ぐらいかかりました。「次はこうしよう」とあれこれ考えるのが好きなんですよね。
──おふたりとも、そういった準備の時間がお好きなんですね。
千草さん:
好きですね……。
美子さん:
構想を練ることは大好きで、いっぱい考えてるんですけど、現実になるのは本当に数えられるぐらい(笑)。考えてる時間が大好きなので、いいんですけど(笑)。
信濃町は毎日が見ごろ
──では最後に、これから来られるお客様に伝えたいことはありますか?
千草さん:
「毎日が見ごろです」というのは、いつもお伝えしています。毎日毎日、風景がちょっとずつ変わっていくんです。晴れの日はもちろん、雨の日は緑が綺麗になったり……毎日新鮮な気持ちになります。そこが信濃町の見どころと言ってもいいのかもしれません。
美子さん:
花も毎日変わっていきます。山野草もいろいろ咲くんですが、だいたい1週間ぐらいで終わっちゃうんです。実は、ひっそり次から次へと咲いてはいるんですよ。同じ場所で次から次へと咲くわけではなくて、こっちでポツンポツンあっちでポツンポツンと場所を変えて咲いてるんです。今は、自分たちだけで楽しんでいるので、お客様にも山野草を楽しみに定期的に来ていただけるといいなって思っています。
──そういう小さな変化って暮らしていないと、なかなか味わえないですよね。
美子さん:
よく「紫陽花はいつごろ咲きますか?」「桜はいつですか?」って問い合わせはあるんですが、山野草のような小さな花もおすすめしたいです。「何月ごろに、この花がこの場所で咲きますよ」とわかるように、ガーデンマップみたいなものを作りたいなと思ってます。
時間をかけて丁寧に作り出された空間
インタビュー中にも、おふたりで「あーしたい、こーしたい」と相談している楽しそうな姿が印象的でした。「黒姫食堂」のゆったりとした時間は、きっとこうしてじっくりと丁寧に作られた空間だからこその時間の流れなのだろうなと思いました。
信濃町でランチするときは、ぜひこの森の中の隠れ家レストラン「黒姫食堂」を訪れて、おいしい料理ときれいなお庭を、ゆっくり堪能してください。
黒姫食堂
住所:長野県上水内郡信濃町大井2742-1370 TEL:026-219-6993 営業時間:9:30〜17:00 定休日:火曜、水曜 Facebook:黒姫食堂 |