ありえない、町民
移住を諦めきれないあなたへ。50代で信濃町へ移住した男性の物語
「いつかは自然が豊かな場所に移住したい!」
そう思いながらもなかなか決断できず気づけば40代を過ぎ、地方移住を諦めた方もいるかもしれません。
ここ信濃町には50代で移住した一人の男性が暮らしています。しかも、移住後まもなく地域に溶け込み、住んでいる地区の未来を考えることがライフワークとなっているようです。どのような人なのか、少し興味がわいてきませんか?
今回インタビューした方
どうせなら、やりたいことをやろう!信濃町を選んだ理由
――地方移住に対して、以前から何か想いはおありでしたか?
もともと、いつか自然の多いところで暮らしたいという想いはぼんやり持っていて、定年退職したら田舎にも拠点を持って、妻とゆっくり畑でもできたらいいなと考えていました。
東京に住んでいた頃はマンション住まいで、自然とは無縁の生活でしたが、農業に興味があったので、仕事をしながら週末に社会人向け農業スクールに通っていたんです。その時から、農業を始めるなら早い方が良いと思っていました。体力面もそうですが、農地を借りたりその土地の気候や風土を肌で理解したりするためには、ある程度時間が必要だと考えていたので。
――信濃町への移住を考えはじめたきっかけは何でしたか?
実は、4年半ほど前に妻が突然病気で亡くなってしまって。人生最大に辛いできごとでしたが、その頃にはもう子どもが大きくなっていて手が離れていたこともあり、「どうせなら、やりたいことをやろう!」と一歩踏み出すきっかけにもなりました。それで二拠点ではなく移住を具体的に考えるようになったんです。
長野県へは旅行で何度も来ており、いいところだという印象を持っていたので、移住するなら長野県のどこかがいいなとは思っていました。その中でも移住先として信濃町に興味を持ったのは、銀座NAGANO(※1) で開催されていた移住セミナーに参加したのがきっかけです。そのとき長野県の他の市町村も参加していましたが、話を聞く中で「実際に現地に行ってみないと分からない」と思ったんですよね。それで信濃町を含めいろんな地域で移住体験や農業体験をしてみた結果、信濃町に住みたいという考えに至り、思い切って早期退職を決意しました。
※1 銀座NAGANO ~しあわせ信州シェアスペース~
銀座にある長野県アンテナショップ。県の名物品販売のほか、情報コーナー、オープンキッチン イベント、ワークショップスペースを提供。長野県の移住情報や観光情報を発信しており、長野県内の自治体がイベントを開催することも多い。
https://www.ginza-nagano.jp/
――信濃町にはもともと馴染みがあったんですか?
信濃町へは家族で何度か遊びに来て、野尻湖でキャンプをしたことがあったので、どういう場所かは知っていたんです。ただ、冬の信濃町は未経験でした。移住前に信濃町ふるさと移住体験施設で少しの間過ごし、そのときに冬の信濃町の厳しさを知りましたが、同時に冬の景色にも圧倒されましたね。
体験施設に滞在している間に町内を見て回った際、今住んでいる富が原地区にも来ました。そこで見たのが、雪が積もった広い畑の奥に、志賀高原の山々が織りなす景色。それにとても感動して、自然の魅力の素晴らしさが冬の大変さを上回ったというのが正直な気持ちです。
農業やドライブ、スノーシュー。信濃町での暮らしを満喫
――信濃町ではどのように暮らしていますか?
仕事は農業をやっています。はじめから一人ではできなかったので、どこかで働きながら勉強しようと思っていたのですが、働く先に伝手があった訳ではなかったので、役場の農林畜産係に相談に行きました。すると親切に町内の事業者を教えてくださり、農業法人で一年間働かせてもらうことができました。先方としても人手不足で困っておられたようで、快く受け入れていただきましたね。
2023年になってから本格的に自分で農業を始めて、長野県の伝統野菜である「ぼたごしょう(※2)」や信濃町の特産品でもある「とうもろこし」を栽培しています。よく育って品質に納得できるものができたため、道の駅で販売したり知人・友人が買ってくれたりしています。
東京にいる息子が定期的に遊びに来てくれるのですが、今夏はぼたごしょうとトウモロコシの収穫と出荷の手伝いをしてくれました。
※2 ぼたごしょう
ピーマンのような見た目と、とうがらしやししとうのような味をもつ野菜。信濃町在来のトウガラシの品種として「信州の伝統野菜」に認定されている。信濃町以外で栽培されているものは「ぼたんこしょう」と呼ばれることもある。
――プライベートはどのように楽しんでいますか?
ドライブが趣味なので、海の幸を食べに新潟へ行ったり、反対に山のドライブを楽しみたいときは戸隠へ行ったりします。戸隠なら車で20分くらいで行けるので、新緑や紅葉の時期は最高ですね。
冬になれば家の近くが一面雪原のようになるため、スノーシューを履いて散歩しています。景色が本当にきれいで、森の中を歩くと清々しい気持ちになります。
薪ストーブのあるログハウスが夢!自ら間取りを考えた住まい
――ステキなログハウスに住んでおられてうらやましいです。
信濃町に移住してくる前から「住むなら絶対に薪ストーブのあるログハウス」と決めていました。はじめはその条件で中古物件を探していたんですが、なかなか見つからなかったんです。
ないなら自分で建てるしかないと思って、信濃町内にあるログハウス専門の工務店にお願いしたところ、土地探しから力になってもらえました。ログハウスは自分で全体のイメージと間取りを考え、もちろん薪ストーブも間取りの中に入れました。
――憧れのログハウスでの暮らしを叶えられたんですね。住みごこちはどうですか?
もう最高ですね!朝は小鳥のさえずりで目覚めて、窓の方を向けば外の景色が額縁におさまった絵画のように見えます。たまにキツツキが壁や薪(家の外に置いている)を叩く音で目覚めることもありますが・・・(笑)。
今年はかなり暑い夏でしたが、信濃町は夏でも夜になれば20℃以下くらいに気温が下がる日がほとんどなのでので本当に快適ですね。冬の寒さは厳しいですが、薪ストーブのおかげで暖かく過ごせています。
――信濃町の冬は雪かきが大変なイメージがあります。
我が家は、家が暖まると屋根の雪が自然に落ちる設計にしてもらったので、雪下ろしの大変さはありません。落ちてきた雪を片付ける作業はありますが、除雪機を使うのでそこまで苦労はありませんね。玄関から前面道路までの雪も除雪機で片付けます。前面道路は町が除雪してくれるため、敷地内さえ除雪すればあとは大丈夫です。
ただ、移住して初めての冬は除雪機を持っていないのに大雪が降りまして・・・。人力で雪かきをして本当に大変な思いをしました。
自分から飛び込めば、受け入れられた。地元の人との関わり
――移住したばかりのとき、どのように地元の人と関わっていましたか?
地区の行事や清掃活動には、積極的に参加しようとはじめから思っていました。「移住してきた自分が受け入れられるのか?」と心配していましたが、地元の人はむしろ「どうぞどうぞ!」という感じだったので、飛び込みやすかったですね。
地域活動に参加するとありがたいことがたくさんありました。多くの人と顔見知りになって色々なことを相談できるようになったんです。はじめは農業をしようにも農地がありませんでしたが貸してくれるという人が現れたり、ぼたごしょうの栽培方法が分からないときは師匠になってくれる人が現れたりしましたね。
――地元の人と関わることで、暮らしやすくなったんですね。
そうですね。みんなで一緒に草刈りをやったり、地区内にあるアファンの森(※3)に続く遊歩道を整備したり。休耕地を活用して作物を育てたりしています。またアファンの森のイベントに協力させていただいたり、参加したりしています。やることがたくさんあるため、信濃町での暮らしは本当に楽しいですね。
※3 アファンの森
荒れ果てていた日本の森に危機感を抱いたイギリス人である 故C.W.ニコル氏が整備していた森。93種類以上の鳥や、1,000種類以上の昆虫が暮らすなど豊かな自然が残る。現在は「一般社団法人 C.W.ニコル・アファンの森財団」が管理している。
https://afan.or.jp/our-story/
地区の未来を考えることが、ライフワークの一つに。
――富が原未来創生会議について教えてください。
「富が原未来創生会議」は、富が原地区(豊瀬さんのお住まいの地区)をより良くしていこうという集まりです。例えば、畑を体験農園のようにしたり、直売所を作ったりマルシェを開いたりして、観光客や移住を検討している方に楽しんでもらうことを、この富が原でできないかと考えています。
――どのようなメンバーがいるんですか?
30代から70代まで幅広い年齢層の人が参画しています。富ヶ原に住んでいるメンバーが中心ですが、中には他の地区に住んでいるけれど富が原を気に入ってくれている人や、東京にも家を持っていて二拠点生活をしている人もいますね。はじめの頃は「地区を盛り上げたい」という気持ちで参加しましたが、今では私の大切なライフワークの一つになっています。
――地区の外にも広がりが生まれていきそうでワクワクしますね。他にも豊瀬さんがこの町でやりたいと思っていることはありますか?
信濃町の農産物を多くの方に知ってほしいと思っています。例えば、ぼたごしょうはピリッと辛くておいしいんですよ。伝統野菜なので調理が難しいのではと思われるかもしれませんが、パスタに入れたり、味噌炒めにしたり、簡単においしく食べられる調理法はたくさんあります。東京の友人に話しても「ぼたごしょうって何?」って感じなので、ぜひこのおいしさを広めていきたいですね。
とうもろこしも同じ様に広めたいです。友人がとうもろこしを買ったときにすごく喜んでくれて、「東京ならもっと高くても売れる」って驚いていました。
はじめは二拠点生活をするも良し。リスクの小さい移住を
――どのような人が信濃町で移住ライフを楽しめると思いますか?
信濃町は、自分で何かしないと何も始まらない場所だと思っています。ただ、何かを始めるきっかけとなる環境はたくさんあります。豊かな自然がたくさんあって、雪もたくさん降る。自然の中でやりたいことが明確なら、信濃町は最高の場所だと思いますね。
近年はリモートワークが盛んになっているので、リモートワークの方にはなおさらいいかもしれません。ただ、雪かきするには除雪機がないと本当に大変です(笑)。
――富が原地区は移住者も多いようですね。
そうですね。私と同時期に三世帯が移住してきて、昨年(2022年)も移住してきた人がいました。私の親戚もよく信濃町に遊びに来て気に入っているようなので、そのうち引っ越してくるような勢いです。
――移住するか悩んでいる人もいると思います。何かメッセージはありますか。
私は思い切って移住しましたが、なかなか踏み切れない人もいると思います。そんな人は二拠点生活をするのも良いのではないでしょうか。信濃町で賃貸物件を借りるか、あるいは中古物件を安く購入すれば移住のリスクを小さくできると思います。
移住前にあれこれ考えても現実と合わないこともあります。二拠点生活をすることで、信濃町へ移住した後の生活がイメージできるようになると思います。本当に信濃町が気に入ってずっと住みたいと思えたら、そのときに移住を考えたら良いのではないでしょうか。
――いきなり移住ではなく、段階を踏んでいくのは良いかもしれませんね。本日はありがとうございました。
まとめ
移住した先が地域活動が盛んな地区だった豊瀬さん。コミュニティーが出来上がっていると、そこに新しく入るのは少しハードルが高いように思えてしまいますが、臆せず飛び込んだことで、充実した生活を手に入れたというお話を聞いて勇気をもらえました。
いきなり移住を決めるのもリスクが大きいもの。地元の人との関わり、除雪や仕事のことなど心配も多いと思います。そのようなときは信濃町ふるさと移住体験施設や二拠点生活を通して信濃町での暮らしを体験することをおすすめします。
本当に信濃町を好きになってくれた人が、希望を持って移住して来られるのを待っています。