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ありえない信濃町通信

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【田舎で起業】東京から松本、そして信濃町へ。日本料理の味わいとおもてなしをうどんで表現する「温石」

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【田舎で起業】東京から松本、そして信濃町へ。日本料理の味わいとおもてなしをうどんで表現する「温石」

飲食店の新規オープンが続いているいなかまち、信濃町。
新しいお店の噂は瞬く間に町内に広がって、町民に楽しい期待感をもたらしてくれます。

そして先日また新しいお店が。町役場のちょうど裏手にあたる場所に、ひっそりとした佇まいで誕生したそのお店の名前は「温石(おんじゃく)」。

長野県松本で16年に渡って日本料理店を営まれていたご夫婦が、新たな土地として選んだ信濃町で、第一歩としてはじめられたうどんのお店です。

今回は店主の須藤さんに、信濃町という土地の持つ魅力や、ご自身が「信州うどん」と呼ぶ、温石のうどんについてお話を聞きました。



今回インタビューをした方

春夏秋冬がはっきりとしている信濃町は、すごく豊かな土地

――もともと東京で料理人としてのキャリアを積んで来られたということですが、どうして東京を離れることにされたんですか?

須藤さん もともと群馬県出身で田舎育ちということもあって、東京も楽しかったですが、やっぱり田舎に行きたいなぁと思うようになりました。妻とは当時はまだ結婚していなかったですが、彼女も同じ考えを持っていて、じゃあ一緒に出ようかと言って、たどり着いたのが長野県の松本でした。

――16年も過ごした松本を離れることになったのは、なにかきっかけが?

須藤さん 松本で店をはじめて以降、自分たちが住む土地を探し続けていたんです。松本の環境も気に入っていたのですが、とても寒いんですよね。ここ(信濃町)の寒さとまた違って、雪がない分もっと寒く感じるんですよ。

あとはお料理のことで言うと、地(じ)のものを使って料理するというのが私のとても大事にしていることなのですが、松本は近くに海がないので海の魚がない。でも海の魚は出したいという葛藤がありました。じゃああたたかくて海があるところへ行けばいいんじゃないってことで、瀬戸内など西の方でずっと探していました。

――あたたかいところで土地を探していたのに、なぜまた信濃町に?

須藤さん あるとき、信濃町の土地を自分で拓いてこれから家を建てるという友人に誘われて、初めて信濃町に来たんです。その土地は森の中にあって、その日はそこで一晩夜を明かして、翌朝友人に連れられて森を歩いたんですね。いろいろな地域を見てきましたが、この自然はちょっと質が違うなと感じました。わたしもそうなんですが、妻がすごく気に入って。

――奥さんは信濃町のどんなところが良かったですか?

奥さん 黒姫山のふもとから遠くに広がる森を見た時、「わぁ!!」となったのを今でも覚えています。もともと森に住みたい、森の中でお店をしたいと思ってずっと探していたですが、なかなかいいと思える土地に出会えなくて。でもこの土地に来た時、自分たちのこれからの暮らしが想像できたのです。信濃町の風景も気に入りましたね。

須藤さん でも(信濃町は)寒いなあ、雪が多いなあって、二人でずっと悩んでいました。

――決め手になったのは何だったんでしょうか。

須藤さん 四季を通して信濃町に足を運んだんですけど、四季折々きれいで、特に冬の雪景色がすごくきれい。この真っ白な景色の中でお客さんに食事をしてもらえたら、それは幸せだろうなって思ったんです。

あたたかい地域でも四季はありますが、メリハリが少し薄いですよね。はっきりとした春夏秋冬それぞれの良さを考えると、ここはすごく豊かな土地だなって、どんどん気持ちが信濃町に向いてきて。

それで、今のこの店がある場所とは別のところに土地を手に入れて、そこで料理屋をやろうと計画し始めました。でもそこは生活ラインが通っていないところなので、水の問題があったり、土地に接する道路を除雪してもらえなかったり、生活を始めるにはいろいろハードルがあって難しくて、(土地を購入してから)7年も経ってしまったんですよね。

――じゃあその土地を今もお持ちで、ゆくゆくはそちらでお店をという思いがおありなんですね。

須藤さん そうなんです。少し考え方を変えて、とりあえずお店としてできる中古物件を探したんです。今後はここでうどん屋をやりながら、そこへ行くための計画や準備をしていこうと思っています。

うどんを通じて、多くの人に日本料理の味わいを

――では、長い計画の中の第一段階として、うどん屋をはじめられたということですね。

須藤さん 松本にいる時から、日本料理屋とは別に気軽に食べられる料理をやりたいと思っていたんです。日本料理だと、どうしてもお客さんが限られた方だけになってしまうので、もう少し多くの人に本来の食の豊かさや、日本料理の味わいに触れてほしいという気持ちがあって。

――松本でそれを実現されてたんですよね。

須藤さん 松本では、野菜の収穫のない冬の間は土中や軒下で野菜を保存するのですが、春が近づくとその状態が悪くなってしまうので、4月の1ヶ月間は日本料理屋を休みにしていたんです。6年前にその期間限定でうどんを出すことにしたら、予想を上回る程たくさんの方にお越しいただいて。みんな求めていたんだなと感じました。

――期間限定の形態として、うどんを選ばれたのはなぜですか?

須藤さん 西の方で土地を探していたときに、比較的うどんを食べる地域が多く、そこでうどんを食べたりして、なんかおもしろそうだなと。おいしいし、地元の人が簡単に食事して帰っていくっていう手軽さがいいんですよね。それで、うどんいいかもなあって。

うどんなら小麦粉が必要ということで調べてみると、長野県でも小麦を栽培していることがわかりました。そこから地元の製麺屋さんの協力を得て、試せる長野県産の粉をすべて試してみたんです。でも強力粉寄りの粉が多く、思うような麺にはならなくて。それでもその中に一種類だけすごくおもしろい粉があって、あ、これはいけるなと。うどんだったら限られた食材でもできるというところもあって、それでうどんを期間限定で始めました。

――わたしも温石さんのおうどんいただきましたが、今までにない食感でびっくりしました。

須藤さん その長野県産の粉の特徴を活かした麺と、わたしが日本料理でやってきたお出汁とを合わせるためにどうしたらいいか、という結果がこのうどんの形になったんです。

コシのあるしっかりした麺にすると、調味料をそれなりに濃くしないとバランスが悪いんです。でもわたしはそういう出汁にしたくなかったので、麺はふわっとした感じがいいなと。長野県の粉の性質であるモチモチ感も感じられるおうどんにしたいと思ってつくりました。

――確かにおつゆも驚きました。優しい味なのに、お出汁の風味が強くて。

須藤さん コンビニやスーパーの惣菜や、レトルト食品、ファストフード店やチェーン店など、今多くの人が口にしている料理って、化学調味料や添加物に頼ったものがほとんどで、日本人の多くはそういう濃い味と強い旨味に慣れてしまっている。でもこのままだと日本の食文化は廃れていってしまうという危機感を持っていたので、そういう人達にもおいしいって思ってもらえるうどん、というのがテーマでした。それにはとにかく強い旨味をつくれば分かってもらえるんじゃないかと考えたんです。もちろん自然素材だけで、素材をたっぷり使って時間をかけてじっくり旨味を出す。そうやって取ったお出汁は、旨味は強いけど後味がすっきりしている。そして驚くほど少ない塩加減で味がまとまるんです。

ただ、私はそういう味に慣れ親しんできたので、その味でおいしいと思うんですけど、今の食生活に慣れている人にはどうなんだろうという不安もあって。でも意外とみんなおいしいって思ってもらえている実感も得られたので、それじゃあこれで行くしかないと。でもまだまだ完成ではなくて、今も研究中です。

地元のひとに足を運んでもらえる店を目指して

――信濃町のお客さんの反応はどうですか?町内から来ている方多いのでしょうか?

須藤さん それが残念なんですが、今のところ町内の方が思ったよりも少ないんですよ。お客さんの半分以上が町外の方のようです。

――もしかしたら店構えが入りにくいのかも…?

須藤さん その通りだと思います。でも私としては、そういうのも含めて楽しいのではと思っているんです。料亭とか料理屋って、ある意味大人の遊園地みたいな、テーマパークみたいなものだとも思うんです。そんな感覚を、ちょっとだけ、うどん屋で味わうのも楽しいかなって。

――非日常感を味わってもらうということですね。お席の感じも、来る前に想像したのと全然ちがって驚きました。特別感があります。

須藤さん 外と内とのギャップもすごく意識したんです。入り口に立ったときは不安の気持ちが多いかもしれない。「ここでいいのかな」っていう不安と、店内に入ってからもこの細い通路の先に何があるのかってドキドキ。そうやってお席につくまでの間に、少しずつお客さんに気持ちに変化を与えて、感じてもらいたい方向に導く。

実はそれは昔から日本料理の中に文化としてあったんですよ。厳密に言うと茶の湯の世界ですが、言葉なしでお客さんに今日のおもてなしの心を伝えるという。とても日本人的ですよね。

――そういうことなんですね。では町内の人にもぜひこのお店の雰囲気を味わってもらいたいですね!信濃町でお店をするにあたり、町の「起業塾」を受けられたそうですが、いかがでしたか?

須藤さん どちらかというと経営のノウハウとかを考えるほうではないので、新鮮で面白かったです。松本でお店をするときにはこういうことを学ぶ機会がなかったですが、起業塾を受けてみて、計画を立てる大切さも学び、とても勉強になりました。

「起業塾(起業等人材育成支援事業)」とは

信濃町で新しい事業を起こす起業家の方、または既存の経営の改善・変革となる「第二の創業」を目指している経営者の方、若手経営者及び後継者、幹部育成のために、経営者としての心構え~収益性・資金調達方法~経営計画(ビジネスプラン)作成までを具体的な起業事例等を交えながら、体系的に学ぶ機会を提供し、参加者の起業等に対する包括的な支援を行ないます。

起業等人材育成支援事業(信濃町)

――最後に、今後の信濃町での目標を教えてください。

須藤さん この店は実はまだ改装が終わっていないんですよ。二階を改装して、妻の描く絵を展示したり、長く使い続けてもらえるような生活道具やオリジナル商品などの販売をするショップができたらいいなと。また、夜もなんらかの形での営業を考えてて、昼のうどんとは違って、夜はゆっくりお酒を飲みながら過ごしていただけるようにできればと思っています。

――その先には日本料理屋のオープンも見据えていらっしゃるんでしょうか?

須藤さん そうですね、でもあまりいつとか決めないでやろうと思って。今は何が起こるかわからないので、今できることをひとつずつやっていく。うどん屋に足を運んでもらうっていうのが、目先の目標です。

新しいお店がいなかまちで生み出す新しい価値観

これまで「ありえない信濃町通信」では、地元の人のニーズに合わせて柔軟にお店の商品やサービスを変えていく、地域に寄りそう形のビジネスモデルのお店を多くご紹介してきました。

今回の温石の場合はそれとはまったく違って、お店側が伝えたい味や世界観をブレさせることなく、こだわりを貫くことで、このいなかまちに新しい価値観と刺激を与えてくれるお店であるように感じました。

他のどこにもない「信州うどん」が、信濃町の地で今後どのように進化していくのか、ぜひご自身の舌で味わいに足を運んでみてください。


温石(おんじゃく)

営業時間 11:30~15:00
定休日 不定休
住 所 長野県上水内郡信濃町大字柏原423-1
電 話 026-217-2422
Facebook 温石 & tadokorogaro


ライター よしし

兵庫県出身。2019年に信濃町に移住してきました。仕事の空き時間を見つけては野尻湖に浮いたり、森歩きをしたり、愛猫4匹とゴロゴロしたりするのが至福です。

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