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信濃町発のローカルスタートアップへの転職で叶えた、自然と遊ぶ働き方

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信濃町発のローカルスタートアップへの転職で叶えた、自然と遊ぶ働き方

ライターのえのです。信濃町から山ひとつ離れた木島平村に住んでいます。

信濃町と言えば、豊かな森林や雄大な稜線の景色が思い浮かびます。町では自然資源を生かした様々なアクティビティが楽しめることも魅力のひとつ。

近年ではサウナの聖地と呼ばれ、アウトドアサウナが体験できる宿泊施設「The Sauna」の影響で「信濃町といえば、サウナだよね」というイメージを持っている方もいるかと思います。

そして、この2024年の4月に信濃町内にオープンしたのが、これまでにないスタイルの「地球を楽しむ」こだわりの施設、「Earthboat Village Kurohime」。名前からしてオシャレです。

薪サウナ付きトレーラーハウス「Earthboat」が、池のほとりを囲む広大な敷地に絶妙な距離感で配置され、まるでひとつの小さな村のような空間。

キャンプよりもハードルが低く快適で、高級ホテルよりも自然との距離がぐんと近く大自然に溶け込む感覚が味わえる、両者の中間をいくサービス。無駄がそぎ落とされたシンプルなトレーラーハウスは海外のデザイナーと連携して設計されているそうで、北欧を思わせる自然と融和したデザインになっています。

サウナが好きな人もそうでない人も楽しめるため(ここで体験してハマってしまうかもしれませんが)、サウナ未経験者やご友人、ご家族など幅広い客層の方が訪れています。

取材させていただいたのは夏ですが、「冬は体が冷えたらサウナに入って体を温める」という利用法もおすすめと聞いて、想像しただけで楽しそう!

と、Earthboatについて掘り下げるだけで1つの記事になりそうですが、今回お話をうかがったのは、Earthboatの製造、販売、運用支援を中心に事業を展開している株式会社アースボート(以下、アースボート社)のディレクターを務める中村さん。

スタートアップ企業へのキャリアチェンジを機に町へ移住するまでの経緯や、現在の働く環境、町での暮らしについてのエピソードをお聞きしました。

今回インタビューした方

信濃町との出会いはサウナ。キャリアチェンジと移住という大きな2つの決断

アースボート社への就職をきっかけに、本社のある信濃町へ移住された中村さん。前居住地は福岡。試用期間を含めて町民歴はもうすぐ1年になりますが、それまでも信濃町には来たことがあったと話します。

「友人の誘いで信濃町にある『The Sauna』に一度行って以来ハマってしまい、その後も何度か信濃町には訪れていました」

現在、アースボート社でパートナー拠点の開発を主導するディレクターとして、それぞれの拠点における工事計画などの進行を調整していく重要な役割を担っている中村さんですが、スタートは全くの未経験だったそう。

「前職では知識が偏っていましたし、デスクワークのスキルもほぼゼロでしたが、自分でキャリアチェンジをすると決めたため、新たな分野に挑戦することに対して戸惑うことはありませんでした。そういう意味では、前の仕事と同じことではなく、やったことがない新しい経験がしたいという思いもありました」

中村さんの前職は装蹄師(そうていし)。馬の蹄を削ったり、蹄鉄(ていてつ)を取り付けたりする専門性の高い技術職です。耳慣れないこの分野との出会いは、父親が仕事で携わっていたオリンピックの「近代五種競技」の中のひとつの馬術だったといいます。

「近代五種」の5種目は、馬術、フェンシング、水泳、射撃とランニング。中村さん自身も、そのひと通りを経験していくなかで、「純粋に一番楽しい、かっこいいと感じた」というフェンシングに種目を絞り、高校はフェンシング部のある学校へ。高校卒業後の進路選択の際、周囲の多くが大学受験を選ぶなか、中村さんは仕事を始めることに照準を合わせ、過去に馬術を経験したときに縁があった装蹄師の道を選んだといいます。

住む場所を変えることは「やりたいことを叶えるための手段」

高校卒業後、中村さんにとって初めての地方移住先となったのが栃木県。栃木にある日本唯一の装蹄の専門学校に通うためでした。そして、さらに就職を機に福岡へ引っ越します。

「最初は関東で就職先を探していました。そのうち、「この人の下で働きたい」と思った人がたまたま福岡にいて。それ以外は何の縁もなかったんですけど、そこへ行くことを決めました。実は、九州へ行くこと自体それが初めてでした」

就職後は、親方につき弟子として学びながら、すぐに現場へ。慣れてきた頃には、車に必要な道具を積んで西日本全域を走り回り、ほとんど家にいないほどだったそうです。そうして6年ほど勤め、中村さん個人への引き合いも増えてきた頃、選択したのはキャリアチェンジの道。

「独立も考えるタイミングでしたが、他のことにも挑戦したいという気持ちが高まり、思い切って仕事をやめようと決意しました」

転職を引き留める声もありながら、それでも中村さんの決心は堅く、揺らぎませんでした。

そんなときに高校時代から仲の良かった友人の紹介で知ったのが、アースボート社の求人。その友人こそ、サウナにまったく興味がなかったという中村さんを『The Sauna』の魅力に目覚めさせた人物でもあり、大手企業を退職して信濃町へ移住した先輩でもあるキーパーソンでした。

アースボート社代表の吉原さんとのオンライン面談の結果、中村さんはアースボート社での仕事のチャンスを掴み、それと同時に信濃町へ移住することが決まりました。

「よく驚かれるのですが、信濃町への移住に対して僕には何の抵抗もありませんでした」と、中村さんは話します。新しい場所へ移り住むことは、やりたいことを実現するために必要な流れ。これまでも住む場所を限定せず目的の達成を最優先に据えて歩んできた中村さんの、躊躇のない決断でした。

いろんな人に助けられながらスタートした信濃町での生活

移住に向かって心の準備はできていた中村さんですが、大きなハードルになったのが住まいの確保。

福岡のような都市部では数ある中から物件が選べますが、信濃町では賃貸物件がほとんどありません。そのため、

「最初は友人や代表のゴウさんの家に居候させてもらい信濃町での生活がスタートしました」

現在の住まいも人とのつながりで借りられることになったといいますが、住まい探しは継続されているとか。

また、雪国ならではの「冬の自動車事情」でも、人に助けられたエピソードが。

信濃町は信州有数の豪雪地であり、冬の雪道に強い四輪駆動の自動車が必須です。 

「四輪駆動の車がないと駄目だと分かっていながら、調達できたのが二輪駆動の車でした。信濃町で冬に運転してみたらやっぱり駄目で、何度も会社の仲間に助けてもらいました」と、困ったときはお互い様の助け合い精神も田舎ならでは。

仕事仲間=遊び仲間 移住者が多くフラットな社風

信濃町在住の株式会社アースボートのスタッフ

「一緒に働くだけではなく、仕事の延長上にある遊びや食事の時間を一緒に過ごして楽しめることも、移住された方にとって働きやすいポイントの1つだと思っています」

アースボート社では現在、社員の約半数が中村さんのような長野県外からの移住者だそう。知り合いが少ない移住者にとって、プライベートの付き合いもできる仕事仲間がいるのは確かに心強いことです。

「社内では僕が一番年下ですが、社員同士がとてもフラットでいい関係性を築けていると思います」

会社全体でオンラインのコミュニケーションツールを活用し、相談しやすい環境が整っているといいます。担当外のプロジェクトの状況も見られるようになっていて、時には代表を含めて社員みんなで意見を出し合って最善の策を見つけるということもあるとか。仕事上でそうしたやり取りができることも、仕事以外での関係性が影響しているのだと感じました。

一緒に働く仲間についても、

「アウトドアが好きな方がいいですね。その大事な部分がズレてしまうと、一緒にコンセプトを作っていく上で、ハードルになるのではないかなと」 

自然が好きで移住してきた社員が多いことから、信濃町の自然を味わう遊びの時間も重要。

「ワークライフバランスはとれていると感じます。たまに遊びすぎかなと思うこともありますが、その分仕事もちゃんとする。遊びも仕事もどちらも本気でできるのは、すごく恵まれた環境だと思います」

仕事はフレックスタイム勤務も可能なので、冬には出勤時間をずらして仕事仲間と朝イチでスノーボードに行ってから出勤することも。「都会に住んでいたら想像できないこと」と、その笑顔から充実している様子が伝わります。

家、車に次いで出費が大きいのもまた「遊び」だそうで、その理由を尋ねると「遊び場との距離が近くなると遊びに行く機会も当然増えるので、今までならレンタルで済ませてきた道具が日常使いになり、買いたくなってくる。出費が増えるというより、お金をかけたくなってしまうというのが本音です」

生活の延長にアクティビティがある環境では、遊びがもはや生活の一部。サーフィンや山登りなど、中村さんのやってみたいことはまだまだ尽きません。

「自然遊び」の師匠は会社のメンバーや、周りの“誰か”。「知り合いの知り合いがその“誰か”につながっていることが多く、例えば、釣りだったらあの人に聞こう、というような豊かなネットワークがあり、何か知りたいことや聞きたいことがあった時に、誰かが必ず経験していて教えてくれる。自然の遊びをこれほど充実して楽しめる環境が手に入ったことは、僕が移住してよかったと思う大きな理由のひとつです」

「地域発」ならではの地域や移住者との関わり

Earthboat Village Kurohime 出典:https://earthboat.jp/list/detail/2

最近では、Earthboatが地元のメディアでもたびたび取り上げられ、信濃町の人に「見たよ」と声をかけられることもあるとか。

「僕たちの会社は、町外から移住してきた社員が多かったり、ビジネスも他地域を拠点としたりしているので、もしかしたら地域の外に目を向けているように見えるかもしれませんが、実は地域にちゃんと根はおろしている。“地域おこし”をしている、ともまた違う感覚で、町の中と外との関わり方のバランスが新しいと感じています」

と中村さん。

 それはプロジェクトにおいても然り。アースボート社が進めるプロジェクトの拠点の運営主体はほとんどが地元の事業者。その地域に根付き、地域のことを熟知した人が運営の主体を担う体制を作ることを意識しているのだそうです。決して地域を置き去りにしないというのが、アースボート社の事業を拡大していくうえで、大事なカギになっているように感じます。

「例えばアクセスが難しい立地では、行くのが難しいからこそ辿り着いた時により大きな感動が味わえるという利点があります。拠点ごとに違う種類の魅力があるというのが僕の印象です」

眺望の良さに着目して拠点を探せば、その分開発をする上での課題も多い。使われていない土地には、それだけの理由があるということ。

「そのハードルを越えた先の景色をお客さんに提供できたり、来てくれた人がリラックスして過ごしている姿を見ていたりすることが嬉しくて、やりがいを感じます」

現在、ディレクターとして様々な拠点に関わっているという中村さん。各拠点の事業がスタートした後も、現地へ足を運び、問題点を見つけたり、よい点は他の拠点にも活かしたり。それぞれの拠点との関係は、ずっと続いていくといいます。

住む場所の変化に大きく左右されることなくそれぞれのステージを楽しんできた中村さんの姿勢が、アースボートでいっそう生かされていると感じました。

最後に、今後のことについてお聞きしました。

「入社して1年も経っていないので、これから数をこなして仕事の質を上げていきながら、新しい拠点ごとの特性や魅力を最大限に引き出して開業を支援するということをしっかりやっていきたい。もっと自然遊びにも挑戦して、仕事も遊びもどちらもやったことがないことに挑戦していきたいですね」

インタビューをとおして

キャリアチェンジを楽しんで挑戦し続けている中村さんのお話は、今の仕事と暮らしの充実ぶりが伝わるお話で、聞いているこちらもワクワクしました。

個人的に、何となくハードルが高いなと感じていたサウナ。中村さんからは「だまされたと思って一回行ってみてください」とおすすめいただき、体験したい欲が俄然(がぜん)高まりました。みなさんもぜひ自然とサウナを味わいにEarthboatへ行かれてみてはどうでしょうか。

ライター えの

埼玉県北本市出身、地域おこし協力隊として2017年〜北信地方に移住。
お買い物や癒しを求めに、山ひとつ越えてよく遊びに来る信濃町の素敵な“ありえない”を文字にのせてお届けできたら嬉しいです。

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