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移住者を受け入れる地元の人の本音とは?長野県信濃町古海の人たちに聞いてみた

ありえない、町民

移住者を受け入れる地元の人の本音とは?長野県信濃町古海の人たちに聞いてみた

こんにちは。長野県信濃町に移住してきて3年目のSakiです。2019年にロッジ「White Tree Lodge(ホワイトツリーロッジ)」をオープンしました。信濃町にもようやく慣れ、自然を満喫しながら静かな山の中で暮らしています。

移住する前は信濃町の空気感がわからず、自分たち家族が地域になじめるのか、不安に思っていました。その中でも私が特に心配していたことが「ご近所付き合い」です。一般的に、田舎には独特の風習や習慣、決まりごとがあったり、濃い人間関係があったりする、という話をよく耳にするからです。

実際に移住してみると、信濃町の中でも私が住んでいる古海(ふるみ)は、移住者が多い地域ということもあって、移住者の先輩が多く、とても温かく迎えてもらったので、不安な気持ちはすぐになくなっていきました。

ただ、私もまだ移住して3年目で、知らないことがいろいろあります。信濃町の昔からの風習や慣例にはどんなものがあるのか、また長く住む地元の方々は新しく引っ越してくる人に対して実際はどう思っているのか、など、気になっていることがありました。

そこで、今回は、移住者に人気のエリア「古海」に住む3人(移住者、Uターン、ずっと信濃町在住)にお集まりいただき、お話を伺いました。

今回の座談会に参加いただいた方々

住んでみてわかる信濃町の魅力

タングラム野尻湖テラスからの景色

――まず、信濃町の魅力とはどんなところでしょうか?

Sさん:

信州五岳に囲まれ、自然が豊か。

安藤さん:

水がおいしい! 信濃町は、普通の水道水がおいしいんですよね。

北村さん:

最近、移住してこられた方が田んぼを見て「素晴らしい」と感動されていて、驚きました。信陰最上古湖(しんいんさいじょうここ)神社も雰囲気があると喜んでいましたね。ここに長く住んでいると慣れてしまって、よさに気づかなくなっているので、外から来た方の意見を聞くと新鮮に感じますね。

信陰最上古湖神社

信陰最上古湖神社。古海の地元の方が管理している神社

――自然の美しさが一番最初に感じることですね。文化や風習についてはいかがですか? この古海地区の風習で、他の地域と違うところがあれば教えてください。

北村さん:

違うといえば、信濃町の中でもとくに古海は雪深い地域なので、冬の間は雪で閉ざされてしまうので、行事が少ないんです。

安藤さん:

少ないですが、2月9日は山の神を祝う「ヤマモチの日」があります。ヤマモチとは信濃町でも古海限定で作っていて、えごまを材料にした五平餅みたいな食べ物です。五平餅はもち米だけどヤマモチは白米をすりつぶしてえごまを合わせて、味噌を入れたり、ネギを入れたり、各家庭の味があります。最近は作る家も減っていますが。

北村さん:

山の神を祝う祭事は、古海が昔は炭焼きをやっていたから。バーベキューとかに使う木炭ってあるでしょ。ああいった炭を作ってたんです。

安藤さん:

このあたりは質のよい炭作りをしていて、これが冬の仕事だったんです。炭焼き小屋の中でヤマモチを作って食べていて。

山の木を使うから山の神に感謝をするということで2月9日にヤマモチを食べる風習があったんですが、炭焼きをする人がいなくなったので「ヤマモチの日」の行事も行われなくなってしまった。この伝統を忘れないために、代わりに秋の収穫感謝祭で地域のみんなで食べるようにしています。

古海地区独特の食文化 ヤマモチ
秋の収穫感謝祭で出されたヤマモチ

――自然が豊かな古海ならではの行事ですね。安藤さんも2004年から古海に移住されてお住まいだと思うのですが、古い風習をどうやって知ったのですか?

安藤さん:

私は「とくし丸」という移動スーパーをやっているので、信濃町の各地を販売車を運転して回っているんですが、古海出身で柏原在住の方から、「ヤマモチを作りたいから、とくし丸でネギを持ってきて」と言われて初めて知ったんです。

人口が減っている現実

廃校になった古海小学校

――そうやって引っ越し先でも続けたり、人から人へ口づたえで伝統が続いていくんですね。

北村さん:

秋にはお神輿を担ぐお祭りもやってたんだけど、今はもうやってないね。

――それはなぜですか?

安藤さん:

人がいないから。立派なお神輿があるけれど、担ぐ人がいなくなってきたので今は保管されているだけですね。

北村さん:

こういった状況はやっぱりさびしいですね。1月15日に「どんど焼き」をやりましたけど、どんどんと規模が小さくなってきてる。昔は書初めを一緒にやってね。

Sさん:

そうそう、書いた紙がうまく燃えると、字もうまくなるよと言われて、私が学校に通っていた頃は毎年していました。なんでなくなったんだろう。

安藤さん:

やっぱり古海小学校がなくなってからかなぁ。小学校がなくなったのがだいたい10年前だから、今の6年生はお神輿を担いだり、書初めを焼いたことがなくて、みんな楽しさを知らないんだよね。

――人が少なくなってるという事実は悲しいですね。その代わりに移住者が増えているということについてはどう感じますか?

安藤さん:

私自身も移住者ですから、移住してくる人が増えることは、もちろん嬉しいです。信濃町は移住者に対してとてもウエルカムな雰囲気だと感じますね。

――安藤さんは、移住する前から古海の地域性をご存じだったんですか?

安藤さん:

地域性までは知らなかったけど、物件を見にきた時に近所のお子さんがすぐに遊びに来てくれて。大人が違うことをしているうちに私の子供と一緒に家の中で遊んでいて、「あぁ、いいなぁ」と思いました。それは本当にありがたかったなぁ。

――やっぱり子供がKEY(鍵)ですね。移住者に対して期待することはありますか?

安藤さん:

移住者の方が信濃町で新しいビジネスをされるのはとてもよいと思うんです。移住してくれるだけでも、もちろん嬉しいですが、この町で何か新しい仕事をスタートされるのあれば、喜んで手伝いたいですね。

北村さん:

そうだね、新しい会社ができるのは大歓迎ですね。ちょっと遠慮してる会社もあるみたいだから、もっと地元の人間たちをうまく巻き込んでほしいなって思ったりしています(笑)。地域との繋がりが薄いのはもったいない。手伝えることもいろいろあると思うので。

安藤さん:

この先を思ったら、新しいビジネスは信濃町にとって絶対にありがたいので、協力したいです。

――具体的にこうしてほしいとかありますか?

北村さん:

例えば、新規就農で稲作を始めるのであれば、知識も少ないだろうから、もっと上手に地元の人に頼ってくれると嬉しいですね。田んぼのことなら、ぼくらのほうが先輩だから。たとえば、草刈りを手伝ってほしいとか。

Sさん:

なんでも気軽に声をかけてほしいですね。

信濃町の資源や知識をどう残していきたいのか

古海地区のゴールドに輝く秋の田んぼ 

――では、地元の方が持っている土地を移住者の方に貸してあげるとか、必要な情報を提供してあげるとか、そういった資源の共有をすることについてはどう思われますか?

安藤さん:

移住してくる方は田舎に来たんだから家庭菜園をやりたい方は多いと思う。最近も、実際に畑をやりたいっていう相談があって、まずは私の畑を手伝ってもらったのね。でも、畑は比較的、初心者でもできるけど、田んぼ(稲作)はできないですよ。いろいろな機械も必要だし。自分で食べるものを作りたいと思って移住するなら、機械を借りたり、田んぼを借りたり、誰かに助けてもらわなきゃできないから、何かネットワークができるといいかな。

北村さん:

機械を持っている私からすれば、お手伝いしますよと思うので、どんどん相談してほしい。畑も面白いけど、田んぼはもっと面白いですよ。

安藤さん:

野菜だけじゃ生きていけないけど、コメが収穫できるようになると、仕事の都合で一時的に収入が減るようなことがあっても、「ここで生きていける」という安心感があるよね。

Sさん:

私は農業の手伝いを普段からしていて、農業が好きだから、お父さんが元気なうちにそういった機械の使い方とか教えてもらいたいなと思ってる。自分たちくらいの若い世代の移住者がもっと増えて、農業を始めてもらいたいなと思ってます。

安藤さん:

Sさんはお勤めもしてるよね? 信濃町から長野市や中野市など近隣の都市へ通勤できることはもっと強調してもいいなと思う。現金収入もありつつ、農業ができるってのはいいことだと思う。

――最初から農業を始めたりビジネスを始めたり新しいことで食べていくのは不安ですが、並行して働きに出かけれるってことはセーフティーネットのような安心感がありますね。仕事を探そうと思ったら仕事ってあるものなんですか?

安藤さん:

一生の仕事じゃなくて、生活するための仕事はたくさんあるよ。

Sさん:

レジやウェイトレスなどのショップでのお仕事や、土地柄、観光業や農業の季節雇用もたくさんあります。60代以上の方も重労働じゃない農作業をしていたり、どんな年代の方でも探せると思います。

――生活に重きをおいて、仕事は仕事と割り切って、いろんなことに挑戦していくっていうスタイルが、信濃町に移住する人の働き方には合っていそうですね。

安藤さん:

そう、大事なのは家族の時間。

――引っ越してきて驚いたのが、このあたりってどこの家族も仲よしですよね。

安藤さん:

やっぱりここで生活するには家族がお互いに助け合っていくことが大切だから、どこの家族も仲がいいんですよね。喧嘩したり、仲が悪かったりしたら、生きていけないからね(笑)。体力のある男性は力仕事を担当するし、子どもや老人も自分にできる作業を積極的に手伝うし、家族の中でそれぞれの役割分担があって。みんなで力を合わせて農作業をしたり、家事をしたり、家族で一緒に何かをすることが自然にできてるなと思います。

――家族との時間がたくさん作れるというのは田舎ならではの良さですね。

移住者を受け入れる地元民の本音と建て前

野尻湖の冬景色

――ところで、本音と建前ってありますか? 信濃町でも「大丈夫ですよ」といいながら、実は「ダメだよ」ってことがあるって聞いたことがあるんですが……。例えば京都の人に「ぶぶ漬け、どうどす?」と言われたら、本当は「早く帰ってほしい」という意味だという話がありますが、言葉とは逆の裏の意味があったり、「こっちの気持ちを汲み取ってよ」っていう無言の了承があるとかないとか。

安藤さん:

そんなことはないですよ。

Sさん:

そんなの気にしなくていいと思う。

――陰口を言うくらいだったら思っていることを直接言ってしまうという雰囲気なんでしょうか?

北村さん:

そうだね、この自然がそういった暗い影の部分を、きっと消してくれるのかも。冬を乗り越えなきゃいけないからね。自然に辛抱強くなったり、自然に鍛えられている感じ。私は若いころは体も弱かったけど、肉体的にも1年1年強くなっていくね。

――自然の厳しさが人々の団結を強めていくんですね。確かに助け合わないとこの厳しい冬はやっていけなかったというのが想像できます。

信濃町は若い移住者も増えている!?

古海地区のみなさん

――最後に移住者に対して、どういうふうに考えているか、思っているのか、お聞かせください。

安藤さん:

古海は若い人、来ているもんね。

北村さん:

どんどん来てほしいけど、住みたくても家がなければ住めないしね。だから、空き家のまま放置されている家を減らしたいですね。

安藤さん:

施設に住んでいる高齢者の家が、空き家になっていることが結構あるね。いいおうちがたくさんあるから、古民家が好きな方には来ていただきたい。

北村さん:

私は空き家のままで人が住んでいない家の持ち主を探して、賃貸に出したり、売却を手伝ったりするボランティア活動をしています。移住者を増やすためには、「住む家がない」という問題を解決することが必要だと思うので、自分にできることをやっています。

Sさん:

私は30代なんですが、「田舎暮らししてみたいなぁ」と思ってる同世代の人たちに来てほしいですね。信濃町には若い人もいますよ、全然生活できますよ、ってことは強調したいです(笑)。おじいちゃんおばあちゃんばっかりだと思わないでほしい。

安藤さん:

今まではリタイア後の田舎暮らしが多かったけど、ここ2年くらいは若い方が移住しつつありますね。新型コロナ感染症の問題が収まったら、また海外の方も古海に来てくださると嬉しいですね。

――観光業もあるし、野尻湖国際村(海外の方が多く住む別荘地)もあるし、外国の方や多重国籍の子供たちも他の地域に比べて多い気がします。空き家を管理したり、みんなが来やすいように環境を整えておいてくれているんですね。お話を伺って歓迎ムードがすごく感じられました。ありがとうございました。

今回、座談会に参加してくださったのは、年代も職業も違う方たちですが、みなさん口をそろえておっしゃっていることは、「もっと移住してきてほしい」「子供が増えてほしい」ということでした。そして、そのための協力体制が素晴らしい。思った以上に住民の方々は頼ってもらうのを待っているようです。新しい生活はわからないことが多いので、こういった受け入れ姿勢があると飛び込みやすく安心ですね。

ちなみに、最近移住してきた方の職業はYouTuber、観光ガイド、ペンション経営、役場職員、会社員(隣町に勤務)などです。

受け入れる住民の方々の意見を参考に、田舎暮らしについてぜひ前向きにお考えください。

町民ライター Saki

兵庫県の姫路市出身。ニュージーランド出身の夫とスキーロッジを始めるため、信濃町に移住。東京・北海道・オーストラリアなどいろいろなところに住んできたからこそ分わかる信濃町の良さを発信していきたいと思っています。

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