ありえない、暮らし
消防団のある暮らし。地域の知り合いが増えてつながりが強くなり、“地域”防災が自分事に
地方に移住すると、本業の仕事以外にも町の仕事や行事への参加機会が増えます。
その一つが消防団。
消防団とは、各自治体が設置する防災組織で、消防局(※1)の職員とは異なり、別の仕事を持つ一般住民が主体となっています。消防組織法に基づく公的な機関で、団員は非常勤特別職の地方公務員という立場にあります。
信濃町に限らず、地方は一つの消防署の管轄エリアが広く、火災が発生して緊急通報を受けても、現場に到着するまで時間がかかることがあります。
そのため、消防隊員が到着する前に初期消火をする必要があります。
その任務を担うのが消防団です。
今回は東京から信濃町に移住し、消防団員として活動している池田多広さんに、田舎暮らしと消防団活動というテーマでお話を伺いました。
※1:信濃町の消防は長野市消防局の管轄。信濃町と同様に上水内(かみみのち)郡に属する飯綱町や小川村も長野市消防局の管轄。
プロフィール
家族5人で満喫する信濃町での暮らし

――なぜ、信濃町へ移住しようと思ったのですか?
コロナ禍をきっかけに移住を考え始めました。
私は生まれも育ちも東京で、信濃町に移住する前に住んでいたのも東京です。スキーやスノーボードで新潟県へ行くことはありましたが、長野県へはそれほど行ったことがありませんでした。
妻が東京で経営していたオーガニックや自然に寄り添った食品のショップの仕入先が信濃町で、それが唯一の信濃町との接点でした。信濃町内で野菜を育てたり、稲刈りをしたりするコミュニティに参加していたこともあり、移住前から町の様子はなんとなく分かっていました。
一方、移住先の検討段階では、長野県外を含む信濃町以外の町も検討していました。しかし、各々の町の雰囲気を知るにつれて、信濃町の雰囲気が好きになったのです。妻の知り合いの方から空き家になっている住宅を貸してもらえることになり、それをきっかけに信濃町への移住を決めました。
――信濃町に移住してきたのはいつごろですか?また、信濃町での暮らしはいかがですか?
移住してきたのは2022年の3月です。私と妻と、3人の子どもの5人家族です。子どもは小学校5年生、3年生、年長で全員男の子なので、騒いだり喧嘩したりというのは日常茶飯事ですね(笑)
今住んでいる家の両隣の方々は子育て世代ではありませんが、そんな我が家のことを温かく見守ってくれています。あいさつをきちんとするなど、日頃からコミュニケーションを取ることで関係を築けているのだと思います。
地域とのつながりと防災。消防団活動の2つの大切さ

――消防団に入ろうと思ったきっかけを教えてください。
同年代の知り合いから誘われたことがきっかけです。 はじめは「消防団の活動は大変そうだな」というイメージが先行してしまい、正直入団を断ろうと思っていました。しかし、よく話を聞くと「消防団活動は、自分ができる範囲で参加すればいい」と分かり、もう少し考えてみることにしたんです。
消防団に入団しようと思ったのは、当時の地域との関わり方も関係しています。例えば、子どもの行事で保育園や小学校に行ったとき、「◯◯くんのパパ」や「□□さん(妻)の旦那さん」と呼ばれることはあっても、私個人として認識してもらえることはありませんでした。
子どもが3人いることもあり、地域との関係作りが大切なのは分かっていました。入団のハードルは多少ありましたが、同時に「移住という大きな決断ができたのだから、消防団活動もできる」という根拠のない自信もありました(笑)
そして、2024年に消防団に入団したのです。
――実際に入団してみていかがですか?
率直な感想として、入団して良かったと思っています。
もちろん、体力的には大変なこともありますが、町内の知り合いがとても増えました。「もし、入団していなかったら……」と考えると、今ほど地域とつながりのある状態にはなれていなかったかもしれません。
――消防団の活動内容について教えてください。
まず分かりやすいのが、火災が発生したときです。消防団のLINEグループに連絡が入るので、その時点で出動できる状態ならまず詰所に行きます。そして、皆で消防車に乗り、現場へ駆けつけて消火活動など必要な作業をします。また、一旦詰所に来たものの、消防団出動の判断待ちの場合には、詰所で待機ということもあります。
消防団が活躍するのは火災だけではありません。件数は多くありませんが、行方不明者の捜索を行うこともあります。私は出動できませんでしたが、山に入った高齢の方の行方が分からなくなり、警察や消防の方と一緒に消防団が捜索活動をしたことがありました。その方は無事に見つかり、怪我や体調の異変もなく自宅に帰ることができました。
他にも大雨などの理由で水路が溢れそうになり土のうを積む、小学校近くの崖が崩れたから復旧作業をするなど、地域に密着した活動をしています。

現場での活動以外にも、訓練の一環として、毎年、ポンプ操法大会という大会があります。これはホースの扱い方や消火までの時間を競うもので、大会の1ヶ月ほど前から皆で集まって練習をします。朝5時からの訓練は少し大変ですが、チーム全員で味わう達成感はまさに「大人の部活動」といった印象です。
ただ、このような活動は家族の理解があって初めてできることです。妻をはじめとして家族の皆に、日々感謝しています。

――消防団活動について、何か課題に感じることはありますか?
団員以外の方に、活動内容があまり伝わっていないように感じます。
消防団活動は地域を守る大切なものです。しかし、団員以外の方からすると、活動の内容が分かりづらいと思われていることも事実です。活動内容がきちんと伝われば、消防団活動に興味を持ってもらえて団員が増えるのではないか?といつも考えています。
入団して分かった助け合いの暮らし

――暮らしのなかで「消防団に入団して良かったな」と思うことを教えてください。
町内に知り合いが増えたことで、とても暮らしやすくなりました。 例えば、私はメガネをかけていますが、その修理を頼むお店の方とは消防団を通じて知り合いました。また、現在、一軒家を新築しているのですが、建具(窓やサッシ)を知り合いの方にお願いしました。こちらも、消防団活動をきっかけに知り合った町内の方です。
また、以前、息子の居場所がわからなくなったときにとても頼もしかったことも覚えています。いつもはスクールバスで小学校に行く息子が、その日は「歩いていく」と言うので本人の判断に任せました。ところが、小学校から「お子さんが登校してきません」と連絡をいただき、真っ青になったことがあります。
私は東京の会社に所属しており、普段はリモートで仕事をしています。しかし、月に数回東京に行く必要があり、その日はちょうど出社のため町を離れている日だったのです。また、妻も仕事で不在にしており、2人ともすぐに動ける状況ではありませんでした。 そんなとき、消防団の仲間が「もし必要なら消防団が動けるようにしておくから」とメッセージをくれたんです。結局息子は学校へ行かず家にいたことが分かり、大事にならずに済みました。仲間からのメッセージは一人の親としても、信濃町の住民としてもとても心強く感じました。
知り合いが増えて近く感じるようになった「地域」という言葉

――消防団の活動を続けているモチベーションを教えてください。
地域を守ることがモチベーションです。
「地域を守る」と聞くと、あまり自分事に感じにくいかもしれません。もちろん、私もはじめからこんなふうに思えたわけではありません。
消防団活動をしていると、町内のさまざまな人と知り合いになります。顔を知っている人が一人、また一人と増えていくと「地域」という言葉が自分事として感じられるようになるんです。
例えば、自分の家が燃えていたら「すぐに火を消さないと!」って思いますよね。自分の家は一つかもしれませんが、町内にあるすべての家は地域の誰かの大切な家なんです。その「誰か」の顔が一人ずつ分かるようになると、人となりも分かるようになります。だから、「火災が発生した」と聞くと「◯◯さんの家の近くだけど、大丈夫かな?」とか「△△さんの家には高齢のご両親が暮らしているけど大丈夫かな?」といったように、自分ごととして感じるようになるんです。
そうやって地域とのつながりが深くなってきた経緯があるので、地域を守ることが、私が消防団活動を続けるモチベーションになっています。
消防団のこれからと移住希望者へのメッセージ

――今後、信濃町の消防団に必要なことは何だと思いますか?
やはり若い人に入団してもらうことだと思います。
当然ですが、若い人が入団しなければ平均年齢は上がるばかりです。消防団活動は体が資本なので、年齢とともに辛くなるというのが正直なところです。 一方、若くして消防団で活躍している団員もいます。ある若い女性団員がいますが、彼女はお兄様が消防団員ということで、消防団に入団したそうです。
消防団はどうしても男性が多くなりがちですが、他にも2名ほど女性団員がいるため、女性の方も以前よりは参加しやすくなったのではないかと思います。もちろん、これまで通り男性の団員も大歓迎です。
――これから移住してくる仲間に、メッセージをお願いします。
山にこもって仙人のような暮らしをするなら別ですが(笑)、田舎暮らしをする上で、地域の人とのつながりは不可欠です。都会とは違って地域の人間関係が密なこと、また、地域とのつながりがある方が暮らしやすいことは、実際に移住した私が感じたことです。そのため、地域防災の観点以外にも、地域とのつながりという意味で消防団は貴重なコミュニティだと思います。
もし、「消防団に興味はあるけど、入ろうか迷っている……」という人がいれば、勇気を出して一歩踏み込んでほしいと思います。そこには頼もしい仲間がたくさんいて、暮らしやすいと感じられる地域社会が待っています。飲み会もありますが、ソフトドリンクも用意されていて、お酒を飲める人も飲めない人も楽しめるように工夫されています。
――今後、どのような信濃町になれば嬉しいと思いますか?
少子高齢化社会のなかで人口を維持しようとすると、移住者を呼び込むことは現実的な手段だと思います。しかも、信濃町には「国際村」という外国人のコミュニティ(居住エリア)があり、古くから町外の人を受け入れる文化がありました。
ただ、移住者が増えてくると、地域の文化やしきたりが薄れていく危機感を覚える地元の方もいると思います。一方で、それが信濃町に住みづらいという側面をもつなら、一方的に移住者が我慢するのも違うのではないかと思います。
バランス感覚がとても難しいですが、信濃町をきちんと未来に残していくためには、必要な議論だと思います。
私は信濃町に移住して3年経ちましたが、特に生活をする上で困ったことはありません。以前より夏が暑くなっていると感じますが、今でもエアコンなしで暮らせるのはすごいことだと思います。でも、雪の多さには驚くので、そこだけは覚悟してください(笑)
最後に
池田さんは東京生まれ・東京育ちにも関わらず、田舎での暮らし方を理解し、そこに溶け込む努力をしていました。しかし、これは出身地に関係なく、池田さん自身の「人間力」によるものなのでしょう。
一般的に田舎は都会より人間関係の面で暮らしづらいと捉えられる傾向があります。個人の捉え方の差もありますが、もしかするとその傾向はあるのかもしれません。しかし、これまで6か所の自治体を渡り歩き、9回の引っ越しをしてきたライターの私・廣石の目線で信濃町を見ると、いわゆる田舎特有の暮らしにくさはそれほど感じません。
まずは信濃町に興味を持っていただき、信濃町の良さが分かって気に入ってもらえれば、とても暮らしやすい町だと分かると思います。
また、信濃町消防団に興味がある方はこちらで詳細を確認できます。

