ありえない、暮らし
野尻湖に浮かぶ宇賀神社で祈る宮司さんの思い。宮司の宮川滋彦さんにインタビュー
みなさんこんにちは。2012年に信濃町に移住してきたERIです。
信濃町に観光で来られた方が立ち寄る場所といえば……そう、野尻湖がありますよね。夏の観光シーズンにはいろいろなスポーツやレジャーを楽しむ人でにぎわっています。
野尻湖に浮かぶ琵琶島(地元では弁天島と呼ばれています)にある宇賀神社は、天平2(730)年創建とされ、僧・行基が御神体を安置したと伝えられる歴史ある神社です。しかしながら、湖を渡らないと行けないことから、信濃町民でも行ったことがないという方もいるようです。
私自身も移住してきてしばらくはそうでした。移住して数年後、初めて参拝したとき、島全体が境内という神々しさや、きちんと整えられた社殿にとても感動したのを覚えています。そしてその感動から、わが子のお宮参りと七五三の際に宇賀神社にお参りしたのですが、その厳かな雰囲気の中で丁寧にご祈祷していただき本当に感激しました。
ところが、私がその話をすると、町内の子育て世代の中にも「宇賀神社で七五三やお宮参りのご祈祷をしてもらえることを知らなかった」という声が少なからずあったのです。
そこで、宇賀神社をもっと身近に感じてもらうために、宮司の宮川滋彦さんに、宇賀神社のお祭りについてや、これからの宇賀神社への思いを伺ってきました。
▼今回インタビューした方はこちら
宮川 滋彦(みやがわ しげひこ)さん 宇賀神社宮司。信濃町出身。祖父〜叔父〜父から引き継ぎ4代目となる。宇賀神社のほかに信濃町の5社の宮司も務めている。平日は会社勤めをしているため、宇賀神社には週1、2回通うスタイルをとっている。現在は長野市在住。 |
宇賀神社に参拝できるのは春から秋まで
──宇賀神社は、本殿やその周辺がいつもきれいに整えられていますよね! ただ、参拝できる期間が限られているんですね。
宮川さん:
宇賀神社は冬季は閉鎖されているんです。4月末に湖水開きという儀式があって、そこから野尻湖の観光シーズンになっていくのですが、参拝客をお迎えするにあたって、氏子のみなさんと一緒にお島掃除をしています。
そして11月のお祭りをもって翌年の春まで冬囲いをします。ですので、宇賀神社に参拝していただけるのは4月末~10月末までです。
──お祭りという話が出ましたが、宇賀神社にはどんなお祭りがありますか?
宮川さん:
春にその年の豊作を祈る祈年祭(5月8日)、神社の誕生日とされる例祭(8月26日)、秋に収穫した新米に感謝する新嘗祭(にいなめさい、11月23日)です。ほかにも小さなお祭りはありますが、この3つはとくに大事なお祭りですね。
宇賀神社の主なお祭り
●5月8日・・・祈年祭(豊作を祈る春のお祭り) ●8月26~28日・・・例祭(神社が創建された日を祝うお祭り) ●11月23日・・・新嘗祭(収穫を祝う秋のお祭り) |
時代に合ったお祭りにしていく
──その中で時代とともに変わってきている部分ってありますか?
宮川さん:
やはり8月26日の例祭のスタイルが変わってきていますね。例祭の時期や日数も変化していますが、町廻りのやり方が一番昔と違ってきています。
──町廻りとはどんなものなのでしょうか?
宮川さん:
神様を神輿(みこし)に乗せて島のまわりをぐるっと回ったり、地区内を練り歩いたりして、神様に地区内を見ていただく儀式です。
以前は神輿が島にあったので舟で迎えに行っていましたが、今は陸のほうに里宮があるので、普段からそちらに神輿が置いてあります。町廻りのスタートが変わることで、かかる時間も短くなりました。
──町廻りは、笛などのお囃子(はやし)が聞こえてきて、にぎやかな感じが楽しいですよね。
神様と人間をつなぐのが宮司
──宮川さんがお祭りの中で大事にされていることは、どんなことですか?
宮川さん:
祭事を厳かに行うことが一番ですね。神主がやるからには、当然それなりの作法や所作があって、それにのっとってやっています。誰もができるわけではありません。ちゃんと決められた通りに祭事を厳かに行うというのがまずひとつ。
二番目に思っているのは、我々神主というのは、みなさんの思いを神様に伝える役割なので、いかにみなさんの気持ちを神様に伝えるかという気持ちでやっています。
三番目に、私も含めて人間はどうしても身勝手なものなので、神社で祈るときに、大きなご利益(りやく)を期待したり、自分の欲を神様に叶えてもらおうとお願いしたりします。しかし、人間の都合を神様仏様の世界に持ちこんでしまうと、いろんな思い違いが起きてしまうんです。 とはいえ、神仏のご加護を祈りたくなるのが人間の心情ですので、譲るところはありますが、絶対譲れない部分もあるので、必要以上に人間の都合で動きたくないなということは考えています。この三つはつねに思って祝詞(のりと)をあげています。
──そのように厳かにされているお祭りの変化について、宮川さんはどう思われていますか?
宮川さん:
お祭りに限らず、どの神社もそうだと思いますが、氏子の減少という問題があります。今の氏子のみなさんがどういう思いで神社やお祭りを守っているのかということを、もっと世の中に広く伝えていかないと続いていかないだろうと少し危機感をもっています。
──宇賀神社と子どものかかわりについて教えてください。
宮川さん:
昔の野尻湖小学校のときから、今の信濃小中学校★になってからも、お祭り時期には、お祭りに参加する子どもたちを公休扱いにしていただくなど協力していただき、非常にありがたいことだなあと感じています。
★2012年4月、信濃町内の5つの小学校(古海・野尻湖・柏原・古間・富士里)が統合され信濃町立信濃小学校となり、信濃町立信濃中学校と併設し、小中一貫教育校の信濃町立信濃小中学校となった。
──お祭りに参加する子どもたちは、どんなことをするんですか?
宮川さん:
稚児行列や浦安の舞で高学年の子どもたちに活躍してもらっています。
●浦安の舞・・・6年生女児4名による平和を祈る舞。練習して例祭で披露し奉納される。 ●稚児行列・・・男児5名、女児12名の計17名で地区内を練り歩く。五穀豊穣を祈るもの。 |
ただ近年は、子どもさんの数がどんどん減っていて、人数をそろえるのが厳しくなっています。浦安の舞は、6年生の女の子が4人そろわなくて、5年生からも出てもらう年があります 。稚児行列も今は定数の17人をそろえるのは難しく、希望者には全員参加してもらっています。
神楽部のほうもだんだん少なくなってきています。 今から子どもと一緒にやっていかないと将来的に続かないだろうということを神楽の人たちも考えていて、神楽部がお囃子を奏でる町廻りの日が土日であれば、「子ども神楽」ということで子どもたちにもお囃子を奏でてもらい一緒に回ります。
──変化もプラスに捉えていくと楽しくなるかもしれないですね。稚児行列や浦安の舞を希望者みんなが経験できたり、神楽部に子どもも参加できたりと、人が少ないぶん濃くかかわれますね。
湖上に位置するのはメリットでもありデメリットでもあり
──宇賀神社は島全体が境内になっていて、とても心が落ち着く場所です。
宮川さん:
宇賀神社の一番のメリットでありデメリットでもあるのが 「湖に神社がある」ということです。通常の神社は陸地にあって、氏子のみなさんが気軽に立ち寄ったり子どもたちが来て遊んだり、本来、神社ってそういう場でもあったんですよね。
──子どものころ神社の公園でよく遊んだ思い出があります。
宮川さん:
でも宇賀神社は湖の真ん中にあるので、簡単に来てもらえないんですね。それが氏子のみなさんにとってはマイナスなわけです。
といいながらも、湖の真ん中にある珍しさから、たくさんの観光客の方が参拝に来てくださるというメリットもあるんです。野尻湖の水が新潟の高田平野の水田を潤しているというつながりで、関川水系土地改良区*の方々が毎年8月27日に参拝に来られたりもしています。
*関川土地改良区(前:中江土地改良区)・・・新潟県上越市妙高市にある土地改良組合。高田平野での農業用水の水源の一つを野尻湖から引いている。その水を守っているのは宇賀神社だということで、毎年例祭の時期に参拝に来られたり神社の改装などに関わってくださっている。 |
──宇賀神社でお宮参りや七五三のご祈祷をお願いできるのは、信濃町の町民だけでしょうか?
宮川さん:
今は地元の方に限定させていただいています。ただ去年、町外の方から結婚の報告を神様にしたいとの依頼がありました。事前に連絡をいただき日程調整もできましたので、お越しいただきました。結婚式はまだ挙げていないということだったので、じゃあ三々九度の真似事でもやってみますかということで、神式の結婚式を少し体験していただいたということがありました。
──素敵ですね! 地元の方は結婚式を挙げていただくことも可能なんですか?
宮川さん:
どうしてもといわれれば受けますが、現実的ではないと思います(笑)。宇賀神社は結婚式を挙げるようには設備が整っていませんので……。ただ、その点をご理解いただいたうえで、それでもという場合は、お受けいたします。
──設備的に大変かもしれませんが、あの景色と雰囲気の中で結婚式……個人的には最高だと思います!
いつも近くにいてくれる神社
──お宮参りや七五三などのご祈祷をお願いするときには、どのような流れで申し込めばよいのでしょうか?
宮川さん:
私が常駐していないため、事前に連絡をいただいて日程を合わせてからお越しいただくかたちになります。急ですと候補日が少なくなってしまうので、1ヵ月前までに連絡をもらえれば、日程調整がしやすいですね。
あと、七五三のお参りについては少し特別なんです。七五三の時期の11月になると、ほとんど遊覧船が出なくなって宇賀神社に行けなくなるんです。そうすると、10月の土日でないとダメなんですね。
私は信濃町の柏原地区にある諏訪神社の宮司もやっていますが、信濃町のみなさんがおいでになりやすいという意味では諏訪神社が一番だと思いますね。七五三は、小学校入学前に同じ年の子たちが顔を合わせる機会としても大事だと思っています。決して宇賀神社でやらないというわけではないですが、みなさんにお越しいただきやすいという点で、諏訪神社においでいただけたらと思っております。
どんなご祈祷でも、宇賀神社でご希望であれば、5月から10月のあいだになりますので、早めにご連絡いただけると嬉しいです。
神社とは何か、神様とは何か
──これからの宇賀神社に対する宮川さんの思いを伺えますか?
宮川さん:
神社は神職のものではなく、あくまで地元のみなさんのもの。ですから、神社のことをできるだけ氏子のみなさんと一緒にやるようにしています。
2016年に社務所を改築しました。とてもきれいになったので氏子のみなさんにもっと寄っていただけるといいなあと思っています。おもてなしができるわけじゃないですが、お茶の一杯ぐらいは出しますので(笑)。帰りの遊覧船の時間を一本遅らせれば、島を散策したり社務所でゆっくり休んでいただけると思います。
──最後に、読者の方に向けてメッセージをお願いします。
宮川さん:
「神社とは何か」「神様とは何か」という問いの答えを、神職になってからずっと探していました。10年前くらいにやっと言えるようになったのは、「自然の恵みに感謝をして、自然の脅威に祈りを捧げて、自然とともに歩んでいく」ということ。これが神社だと思っているんです。そのことをみなさんに伝えていきたいですね。
来年(2022年)は、式年祭という7年(数え年で7年、実際には6年)に一度の大きなお祭りがあるんですが、宇賀神社のことをもっとみなさんに知っていただく機会になればと思って準備をしています。信濃町には観光資源がいろいろありますが、野尻湖もその大きなひとつです。宇賀神社は信濃町全体を守る神社だということを広めていきたい。毎年の例祭では見られない、式年祭のときだけ公開する宝物(宇賀弁財天像や十五童子像、勝海舟揮毫の額など)もありますので、多くの方に来ていただきたいなと思っています。
まだの方はぜひ宇賀神社を訪れてみて
島に降り立ったところから神々に守られるような雰囲気のある宇賀神社。それは宮川さんが信念と誇りをもって宮司をされ、氏子のみなさんが一緒に神社を整備し大切に守っているからだということが、お話を聞いてよくわかりました。
昔から多くの方に参拝されてきた宇賀神社を、これからも守っていきたいという宮川さんの思いが、ご祈祷の凛とした姿にも表れていたように思います。
まだ行ったことがない方はぜひ宇賀神社に参拝、ご祈祷をお願いされてはいかがでしょうか。
宇賀神社 長野県上水内郡信濃町野尻琵琶島246 宇賀神社 公式Webサイト https://ugajinja.jp/ 拝観時間やアクセス方法などは「長野県しなの町観光協会」のサイトもご参照ください。 https://www.shinano-machi.com/spot/90 |