
ありえない、町民
【移住者インタビュー】人と人をつなげる信濃町のリビング「Cafe Soo&Suu…」とは。店主の室橋さんご夫妻に取材しました
こんにちは、ライターの水橋です。この「ありえない信濃町通信」では、長野県信濃町に移住してきて実際に田舎暮らしを実践している方々へのインタビューをおこなってきました。今回取材したのは、今年(2020年)信濃町にオープンした「Cafe Soo&Suu…(カフェ ソー&スー…)」のオーナー夫妻、室橋光男さん・美智香さん。
お二人はなぜ信濃町を選び、飲食店未経験からカフェをオープンすることになったのか、をレポートします。移住、そして移住後の起業にいたる道筋をイメージしていただけたらと思います!
今回インタビューをした方
東京に住んでいた室橋夫妻。移住のきっかけは?

室橋さんご夫妻は東京都八王子市から5年前に移住してきました。信濃町には一年を通して休暇のたびに遊びに来ていた、という光男さん。
光男さん:「私はサラリーマン時代から冬ならスキー、夏は野尻湖で釣りをしたりと、よく信濃町に遊びに来ていたんです。それで信濃町が好きになって、いずれはこちらに来たいな、という気持ちでいました。定年になって子どもたちもみな独立したので、ちょうどいい機会だなと、家内と相談して移住を決めました」
移住を決めてから2年間にわたって探し続けて、ようやく出会えたのがこちらの物件でした。
光男さん:「移住の決め手は、信濃町が私の理想とする“田舎の匂いのする場所”だったことです。山があって、野尻湖のような湖があって、田園風景が広がるなかに民家が点在するような、そんなイメージのところに住みたいな、と思っていました」

室橋さん夫妻が営む「Cafe Soo&Suu…」は信濃町の中心部、小林一茶記念館がある小丸山公園の近くにあります。昨年(2020年)7月に開店し、宣伝はInstagramのみ。半年が経ったいま、口コミでお客さんが続々とやってくる、町内でも人気のカフェになりつつあります。
光男さん:「うちはゆったりした時間を過ごしていただく、というのがコンセプト。ですから、いつまでいていただいてもいいんですよ」
自宅の一角にあるこのお店のスペースは、元ガレージ。シャッターを引き戸に、土間をセルフリノベーションで三和土(たたき)にし、大きな窓を切り取って、景観を存分に楽しめる古民家風カフェに仕立てました。
デザインしたのは光男さん。もともと建築業界にいたので、自分で図面を引くのはお手のもの。一つひとつ雰囲気の異なるイスとテーブル、ランプシェードと漆喰の壁などの個性的なインテリアと、「和」を感じさせる古民家の佇まいがすてきに組み合わさった空間です。塗料など、ここで使用している建材は、すべて身体や環境にやさしいものを選んでいるそうです。
「町の人たちの情報交換の場を、自分たちでつくりたい」

光男さん:「最初はカフェをやるつもりはなくて、山があって湖があって、畑の中に民家が点在している、そういう田舎でゆっくり過ごしたいと思って、生活の場を移すために引っ越してきただけなんです。
田舎に行けば、テレビで見る「田舎暮らし」のように友だちがいっぱいできるのかな、とぼんやり思っていましたが、いざ引っ越してみると、人と人との接点が少ないというこの町の課題に気づいて。
『ここに暮らす皆さんが実践している価値ある生活について、情報交換ができる場所が意外にないぞ』『“豊かな田舎暮らし”は自然にはできない、自分でつくりあげないといけないんだ』、と思ったんです」
最初、美智香さんは「自分のコレクションを生かして小物屋さんができたらいいな」と考えたそうですが、「田舎では需要がないかもしれない」と考え直します。「地域の方が集まる場所を、と考えるならば、これは絶対カフェだろう」と二人で話して、カフェをつくることに。

開業にあたって光男さんは、信濃町が主催する「起業塾(起業等人材育成支援事業)」を受講しました。塾の卒業生で飲食店経験のある方から、メニューのアドバイスをもらったのだそう。
美智香さん:「メニューづくりや経理のことなど、こんなことまで!? というくらい教えていただきました」
起業塾での同期との交流は現在も続いているそうです。「その道のプロと情報交換できたことが大きかった」(光男さん)と、世代や職種を超えた信頼できる仲間が地元にいることの心強さを話してくれました。
美智香さんはカフェを始める以前は、隣の中野市まで通勤していて、雪の中通うのが大変だったことも、「自宅で起業しよう」と考えるきっかけになったそうです。
信濃町では貴重!日本やアジアのおいしいもの

ランチは、レモンとココナッツミルクを使ったレモンカレーと、週変わりのメニュー(取材時はルーロー飯)の2種類があります。
デザートは季節ごとに変わりますが、放し飼いの地鶏卵でつくる台湾カステラと、カボチャを使った和菓子「浮島」が人気。信濃町周辺にはイタリアンや洋菓子、パンが食べられるカフェが多いので、「他店では食べられないものを提供しよう」と、アジアの料理や和の甘味をそろえています。一番人気はレモンカレーセットと台湾カステラの組み合わせです。

トレーに乗りきらないほどの小鉢がついてくるランチは、「こんなに付けて大丈夫? ってお客様に心配されますけど、自家栽培の野菜や、地域の方からいただいた野菜を使っているので、実はそれほどコストはかかっていないんですよ」と美智香さん。地産地消で野菜たっぷりの手作りごはん。これを食べれば身体の中から元気になれますね。

今後はカフェの食事を充実させながら「カフェ+α」にも挑戦してみたい、と光男さん。
光男さん:「たとえば、多肉植物を愛でる会といったミニイベントや、妻の友人の作家さんを招いた個展などをやっていけたらな、と思います。この地域の方たちがお互いに知り合っていくなかで、さらに多様な価値が生まれてくるのではないか――そんな思いで交流の場を作りあげていきたいと思っています」

移住者も住民も、“豊かな田舎暮らし”を一緒に


最後に、実際に移住してみてどんな変化があったかをお聞きしました。
光男さん:「自然の豊かさはもちろん、都会とは違って時間がゆっくりと流れていること。いや、むしろ時間を忘れられるというか、時間がないところが田舎だなと、その良さを感じています。家内はまた別ですけどね(笑)」
美智香さん:「主人に、のんびり暮らせるし、地域の人との交流も楽しいから田舎はいいところだよ、って言われて騙されて、ここに来たんです(笑)。近所の方には『なんでこんなところに来たの?』って聞かれるから、最初は自分でもなんで来ちゃったんだろう? って思っていました」
美智香さんは、田舎暮らしに最初から興味があったわけではなく、なりゆきで付いてきてしまったようです(笑)。でも、豊かな人生経験と移住直後に感じたギャップを生かして、地域のみなさんに居心地のいい場所を提供するという天職に恵まれ、いまはとっても楽しそう!

美智香さん:「カフェを始めてからは楽しくやっています。小物好きな方や多肉植物好きな方も結構いらっしゃって、地域の方に仲良くしていただいたり。信濃町内だけでなく、上越など近隣地域からのお客様や、若い移住者のお客様も多いです。最近は『ちょい飲み屋 民』さんでベリーダンスを始めました。そこでも移住してきた人たちとの輪ができています」

美智香さん曰く、「この人(光男さん)は人と話すのが本当に好きなんですよ」。光男さんは、女性には自分から話しかけないようにと気遣いつつ、女性同士の会話にスッとなじんで、知らないお客さん同士のコミュニケーションのきっかけをつくる役目を担っています。
お二人の持ち前の好奇心や感性が、ここにしかないカフェ空間をつくるのに存分に生かされているな、と感じました。店内に流れるジャズナンバーも心地よく、おしゃべりが弾みそうです。

というわけで、今回は信濃町にカフェをオープンした室橋さん夫妻にお話を伺いました。多様な職歴を持った個性的な方が移住し、もともと住んでいる人とも自然に仲良くなって、地域をより楽しくしようと交流の場をつくっていることは、これから移住する方には心強いかもしれませんね。
田舎暮らしの話や起業の話を聞いてみたい方は、ぜひ、「Cafe Soo&Suu…」に出かけてみてください。お昼を中心に、週4日、営業しているそうです。営業時間をチェックして、時間に余裕を持って出かけてくださいね。
取材・文・写真:水橋絵美
Cafe Soo&Suu…
営業時間:11:00~16:00(ランチ11:00~14:00)
定休日:火・水・木曜日
住所: 長野県上水内郡信濃町大字柏原2454-8
TEL: 026-466-6164
HP:https://www.cafe-soo-suu.com/
Instagram:https://www.instagram.com/cafesoosuu/